[M&A戦略と会計・税務・財務]

2023年10月号 348号

(2023/09/11)

第193回 金融のデジタル化と税制の動向

荒井 優美子(PwC税理士法人 タックス・ディレクター)
  • A,B,EXコース
1. 金融のデジタル化に対応する国際的取組み

 OECDのBEPS/G20包摂的枠組み(以下、「包摂的枠組み」)は、デジタル経済の進展に伴う国際課税の枠組みの制度化(第1の柱と第2の柱)に取組む一方で、暗号資産(Crypto-Asset)の取引について、2020年10月に仮想通貨(その後、「暗号資産」に呼称を変更)の課税に関する報告書(Taxing Virtual Currencies: An Overview of Tax Treatments and Emerging Tax Policy Issues)を公表し、2022年10月には暗号資産等報告枠組と共通報告基準の改正内容(Crypto-Asset Reporting Framework and Amendments to the Common Reporting Standard)を公表した。暗号資産は、有価証券や法定通貨と異なり、発行や流通についての国際的な制度化や規制等が未だ整備されておらず、脱税や金融犯罪に悪用されることが指摘されており、包摂的枠組みでも対応が検討されていたものである。

 2015年6月にドイツで開催されたG7首脳会合で採択された首脳宣言において、「テロとの闘い及びテロリストへの資金供与はG7にとっての主要な課題」であり、「仮想通貨(virtual currencies)及びその他の新たな支払手段の適切な規制を含め、全ての金融の流れの透明性拡大を確保するために更なる行動をとる」という決意を表明した。又、OECDの金融活動作業部会 (FATF(Financial Action Task Force))(注1)は、各国は、仮想通貨と法定通貨を交換する交換所に対し、登録・免許制を課すとともに、顧客の本人確認義務等のマネーロンダリング・テロ資金供与規制を課すべきことを勧告するガイダンスを2015年6月に発表した。

 2021年6月に英国で開催されたG7財務大臣・中央銀行総裁声明(仮訳)では、「デジタル・マネー及びデジタル・ペイメントのイノベーションは、大きな利益をもたらし得る一方、公共政策及び規制上の問題を引き起こす可能性もある。G7の中央銀行は、中央銀行デジタル通貨(CBDCs)(注2)の機会、課題、通貨及び金融の安定へのインプリケーションを探求してきており、我々は、財務省及び中央銀行として、それぞれのマンデートの範囲内で、公共政策上の幅広いインプリケーションについて、協働することにコミットする」こと、及び「いかなるグローバル・ステーブルコインのプロジェクトも、関連する法律上、規制上及び監視上の要件が、適切な設計と適用可能な基準の遵守を通して十分に対処されるまではサービスを開始するべきでないことを再確認する」ことを表明している。

 最近では、2023 年 7 月にインドで開催されたG20 財務大臣・中央銀行総裁会議のG20 成果文書(仮訳)においても、「暗号資産等報告枠組(CARF)及びCRSの改訂の迅速な実施を求める」こと、及び「暗号資産エコシステムにおいて急速に進展する動向のリスクを引き続き注意深く監視」し、「暗号資産の活動及び市場並びにグローバル・ステーブルコインの規制・監督・監視に関する金融安定理事会(FSB)のハイレベル勧告を承認する」ことを、全ての G20 の財務大臣・中央銀行総裁の合意として表明している。

 以下では、我が国における電子決済手段及び暗号資産に係る法制度の動向と税務について解説する。

2. 仮想通貨の制度整備

 「仮想通貨」及び「仮想通貨交換業者」は2016年5月に「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」(以下、「2016年銀行法等改正法」)により改正された「資金決済に関する法律」(以下、「資金決済法」及び「2016年改正資金決済法」)において初めて定義規定が設けられた。2016年銀行法等改正法の立法趣旨は、「情報通信技術の急速な進展等、最近における金融を取り巻く環境の変化に対応し、金融機能の強化を図るため、金融グループの経営管理機能の充実、金融グループ内の共通・重複業務の集約及び金融グループと金融関連IT企業等との提携の容易化、仮想通貨交換業に関する制度の整備等の所要の措置を講ずる必要がある」と説明されている。2016年改正資金決済法による「仮想通貨」への対応は、マネーロンダリング・テロ資金供与対策に関する国際的要請がなされたことや、国内で当時世界最大規模の仮想通貨交換業者が破綻したことを受け、仮想通貨と法定通貨等の交換業者に対し、登録制を導入し、本人確認義務等の導入や説明義務等の一定の利用者保護規定を整備したものである(注3)。

 さらに、仮想通貨交換業等をめぐる諸問題について制度的な対応を検討するため、「仮想通貨交換業等に関する研究会」が2018年3月に設置され、「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書が2018年12月に公表された。「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書では、顧客の仮想通貨の流出事案が複数発生、事業規模の急拡大に業者の内部管理態勢の整備が追いついていない実態、価格が乱高下し、仮想通貨が投機の対象になっていること、仮想通貨を用いた新たな取引(証拠金取引やICO(Initial Coin Offering))の登場等を踏まえて、仮想通貨交換業者を巡る課題への対応や仮想通貨証拠金取引等やICOへの対応が提言としてまとめられている。

 そしてこのような提言を基に、利用者保護の確保やルールの明確化のための制度整備や国際的な動向等を踏まえ、法令上の呼称を「仮想通貨」から「暗号資産」に変更する改正が、2019年5月改正後の資金決済法において行われ、ICOについては金融商品取引規制の対象となること等が、2019年5月改正後の金融商品取引法において明確化された(「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」による改正)。ICOは、仮想通貨による資金調達を目的としているが、投資性のICOは金融商品取引法の対象とされ、それ以外のICO(支払い・決済手段)は資金決済法の対象とされることが明らかとされた(資料3参照)。

3. デジタル・分散型金融への対応

 2021年6月のG7財務大臣・中央銀行総裁声明を受けて、経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太方針2021)と成長戦略実行計画(2021年6月18日閣議決定)で、CBDCの制度設計やトークンに関する事業環境整備の方針を明らかにした(注4)。そして、ブロックチェーン技術の活用を含め、金融のデジタル化が加速する状況において、送金手段や証券商品などのデジタル化への対応のあり方等を検討するため、「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」が2021年7月に設置された(注5)。

 分散型金融(DeFi (Decentralized Finance))とは、デジタルアセットの取引等のプラットフォームで特定の管理者がいない(またはいないと称する)もので、暗号資産、ステーブルコイン(暗号資産の一部)、証券トークン等の取引が含まれる。これに対して銀行やペイ業者が発効するデジタルマネーは、特定の管理者が存在する(図表1参照)。



■筆者プロフィール■

荒井 優美子

荒井 優美子(あらい・ゆみこ)公認会計士/税理士
コンサルティング会社、監査法人勤務後、米国留学を経てクーパース&ライブランド(現PwC税理士法人)に入所し現在に至る。クロスボーダーの投資案件、組織再編等の分野で税務コンサルティングに従事。2011年よりノレッジセンター業務を行う。日本公認会計士協会 租税調査会(出版部会)、法人税部会委員。一橋大学法学部卒業、コロンビア大学国際公共政策大学院卒業(MIA)、ニューヨーク大学ロースクール卒業(LLM)。

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