[M&A戦略と会計・税務・財務]

2014年10月号 240号

(2014/09/15)

第88回 組織再編を利用した租税回避を巡る事案と国際的対応の動向

 荒井 優美子(税理士法人プライスウォーターハウスクーパース タックス・ディレクター)
  • A,B,EXコース

1.はじめに

  平成13年度に我が国の組織再編税制が導入され、既に10年以上が経過した。その間に、欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用(平成18年度税制改正)や組織再編による欠損金の引継要件の見直し等の、組織再編に係る租税回避的行為の個別否認規定の整備や、グループ法人税制の導入(平成22年度)に伴う、組織再編税制の見直しが行われてきた。組織再編税制は所定の適格要件を満たす場合には、再編法人及びその株主においても非課税となり(移転資産の譲渡損益課税、株式の譲渡損益課税、みなし配当課税等)、被合併法人や清算法人の繰越欠損金や含み損を有する資産の合併法人等への引継ぎ、含み損の損金算入を認めるものである。従って、適格組織再編の要件や合併等に伴う(被合併法人等の)繰越欠損金の引継要件や移転資産の含み損の損金算入を定めた「個別規定」の要件が充足されないと税務調査で認定された場合には、課税が生じることとなる(これらの個別制度の規定は「個別否認規定」と呼ばれる)。

  一方で、個別の規定を形式的に充足させながら、組織再編を利用した租税回避行為が行われることは組織再編税制の立法に当たって想定されたことであり(注1)、組織再編についても適正な課税を行うことができるように個別的な租税回避防止規定とは別に、包括的な組織再編成に係る租税回避防止規定を置くこととされた(「包括否認規定」と呼ばれる)。法人税法132条の2(注2)が組織再編税制の「包括否認規定」と呼ばれる条文であり、法人税法132条の規定(同族会社の行為否認の一般規定)(注3)と類似した規定が置かれることとなった。

  組織再編の組成においては、税務の専門家は常に上記の包括否認規定を念頭に置いてアドバイスを行ってきたものと考えらえられる。2014年3月に東京地方裁判所から、組織再編税制創設以来初めて、当該包括否認規定による法人税の課税処分を認める判決(以下「判決」)が出され、組織再編の組成については納税者も税務専門家も改めて「組織再編における租税回避行為」の検討を迫られる状況となっている。

  本稿では、上記の判決も踏まえながら、近年のM&Aにおける租税回避の事例や、我が国及び海外での立法の整備、動向について解説を行うものである。
 

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