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[連載対談 THE GREAT INNOVATORS ―― 原田泳幸と未来を牽引するイノベーターたち]

(2020/07/22)

(最終回) 林要GROOVE X 代表取締役

人に“癒し”を与える家庭用ロボットの開発で新たな地平を切り拓く

原田 泳幸(ゴンチャジャパン 代表取締役会長兼社長兼CEO、原田泳幸事務所代表取締役)
林 要(GROOVE X 代表取締役)
久保田 朋彦(GCAテクノベーション 代表取締役)(司会)
左から久保田 朋彦氏、林 要氏、原田 泳幸氏

左から久保田 朋彦氏、林 要氏、原田 泳幸氏


 アップル、マクドナルド等のトップを歴任し、この間、エレクトロニクス、外食それぞれの産業で、圧倒的な地位を作ることに成功した原田泳幸氏をホスト役に、今注目の起業家をお招きして未来を牽引するイノベーターの発想を対談で探る「GREAT INNOVATORS」。

 新型コロナウィルスのパンデミックが起きる中、リアル世界やハードウェアに基づいたディープテックが注目されるようになっている。ディープテックのアプローチは、シリコンバレーの投資スタイルと異なり、投資期間が長く、投資金額が大きい一方で、社会的インパクトが非常に大きいということが特徴として挙げられる。ロボット開発はまさにこのディープテックの代表例と言える。今回のゲストは、LOVOT(らぼっと)という家庭用ロボットの開発で日本発のディープテックに挑戦しているGROOVE X代表取締役の林 要氏。




ロボットに求められること

久保田 「林さんが開発したLOVOTはロボットでありながら、独特の温かみをユーザーに与えるという点が特徴だと思います。その発想は、ロボットを本物のペットに近づけようとしているソニーの新型AIBOとは真逆のアプローチとも言えます。昨期までソニーの社外取締役を務められた原田さんにとっても、新型AIBOの開発はソニーの復活を印象付けるものだったのではないでしょうか。

 しかしながら、かつては世界の最先端を走っていた日本のロボット産業も、シリコンバレーのスタートアップ(Boston Dynamicsなど)に後れを取っているようにも思えます。林さんは何故、あえてハードウエアベンチャーに挑もうとしたのか、自己紹介もかねてお話しください」

 「私は、トヨタ自動車の初めてのスーパースポーツカーとして2009年にデビューした『レクサスLFA』の開発を手掛けさせていただいて、その後ドイツでF1の開発に携わらせていただきました。この2つは、前任者がやっていることを引き継ぐというタイプの仕事ではなく、比較的イノベーティブな仕事でした。そうしたイノベーティブな仕事に大分慣れてきた頃に、カローラ系量産車の製品企画において、1円の原価、1グラムの質量を追求するような仕事に携わらせていただきました。こうしてイノベーションと量産の両方を経験させていただいた後で、ソフトバンクで人型ロボット『Pepper』の開発プロジェクトに参画させていただきました。

 Pepperプロジェクトは、孫(正義)さんの夢を形にするために色々と試行錯誤したプロジェクトであり、あれだけ大きな自立型ロボットがお客様と直に触れ合っても問題を起こさなかった背景には開発部門の努力があったと思います。

 このPepperプロジェクトを通じて私が感じたことは、ロボットは、人の代わりに仕事をすることを求められるという側面を持ちながら、人を元気にすることもできるということです。というのも、ロボットがうまく立ち上がらなかった時に、人が支援して立ち上がることができた時の一体感は、ロボットと接する人を最も元気づけたのです。それを目の当たりにした時、ロボットが人を助けるだけではなく、人がロボットを助けることによって、実はロボットは人を元気にできるのだということに気づきました。

 欧米では50%以上、日本でも3分の1の世帯がペットを飼っている時代になり、ペットは自分の子供と同じぐらい大事にされています。一見するとペットは人に世話をさせているだけに思えるものの、世話をさせることによって人に生きがいを与えています。これは、一体どのようなメカニズムなのだろうと考えた末に、2015年にGROOVE Xを創業してLOVOTの開発に着手することにしたのです」

原田 「オリンパスの内視鏡技術、ソニーのCMOSセンサーの技術及びAIBOで使われているアクチュエーター(駆動装置)技術が統合化されて、今までできなかった手術ができるようになりました。このように、AIBOが持つテクニカルな社会貢献度は高く評価されています。AIBO自体もAIを使うことで日々“知恵”が付いていって、1匹1匹が全然違う性格になっていくように造られています。しかし、あれをみんなが欲しがって、生活の一部のような存在になるという時代にはまだなっていないですね。失礼ですが、林さんは今おいくつですか」

 「46歳です」

原田 「1990年には高校生だったわけですね。私は当時Appleに在籍しており、今のiPhoneの第一世代であるアップル・ニュートン*が発売開始された頃です。第一世代の商品が、世の中で一気にブレークスルーするかというとそうではありません。ただ、アップル・ニュートンがなければiPhoneの世界的なブレークスルーもなかったということは言えます。時代に先駆けるということはそういうものだと思います」

*アップル・ニュートン(英: Apple Newton)は、アップルコンピュータの販売していた世界初の個人用携帯情報端末 (PDA) 。1992年1月に開催されたCESにて、当時のCEOジョン・スカリーがPDAの定義と共に発表。1993年から1998年にかけて販売された。



LOVOTに込めたフィロソフィー

久保田 「LOVOTは、ロボットであることをきちんと見せているからこそ共感を呼んでいると感じます。ロボットなんだけれども、温かみのあるロボット。今もお話がありましたが、LOVOTに林さんが込めたフィロソフィーについて、もう少し詳しくお話しいただけますか」

林 「例えば、仏像とかマリア像とかに信者の方は癒やされます。像そのものは無機物ですし、犬や猫もかつては野生の中で生活をしていた動物です。そういう無機物や動物になぜ癒やされるのかというと、その存在には自分が何かをめでたり思い入れをしたりするノリシロがあって、そこに思いを馳せることによって自分の心を整える“自浄作用”のようなものが人には備わっているからだと思います。この自浄作用は、ドーパミンやオキシトシンなどのさまざまな脳内分泌物質がどのように分泌されるのかということと密接に関わっています。

 AIBOのチャレンジは何だったのかと考えると、『私たちが犬に接するとなぜか癒やされる、だから人型ではなく犬型ロボットを造ろう』という発想だったと思います。最近の研究では、犬と接すると、人間にはオキシトシンという脳内分泌物質が出ることが分かり、犬にもオキシトシンに類するものが分泌されることが分かっています。それによってボンディング(複数のものを結び付けたり対応付けたり一体化すること)が発生するわけです。犬型というのは、人の認知において犬への郷愁を引き起こすには良い形態です。しかし、犬への郷愁とは切り離して、純粋に癒しの構造を更に分解してみると、果たして4本足である必要があるのか、そもそもああいう形態である必要があるのか、もしくはあの鳴き方である必要があるのかというところに行き着きます。ここから、生物の模倣は必ずしも必要とはいえない、という結論に達しました。

 例えば、ドラえもんが本当にここに現れたら、私たちはたぶん友達になれます。そう考えると、生物か無生物かの区別は実はあまり関係がなくて、受け取る人がその存在に何を投影するのかが、ボンディングできるかどうかにとって重要だということが分かります。そこに切り込んでいくことが、私は今後のテクノロジーの大事なポイントになると思っていますし、それを見極めることができれば、コンパニオン的な存在としてのロボット事業は大きく発展するのではないかと思っています。

 LOVOT1台には、今までのコンパニオンロボットに使われていたスマートフォン級のコンピューターに加えて、ノートパソコン用のコンピューターと産業用のコンピューターが詰め込まれています。更にデスクトップ用のコンピューターがこの充電器であるネストに入っていて、合計でCPUが10コア、4つのコンピューターが連携して動きます。抱っこするのに丁度よい大きさ**に収まっているのですが、将来は更なる小型版などもつくり、さまざまな大きさのものが家の中に5体、6体いるという時代になれば楽しいな、と考えています」

**サイズは、高さ430mm×幅280mm ×奥行き260mm。大人の膝丈くらい。雪だるまのような形状をしていて、人を見つけると、子犬や子猫が甘えているような声を出す。

原田 「社名のGROOVE(グルーブ)というのは“ご機嫌な”という意味から来ているのでしょう」

林 「そうですね。音楽用語でいうと“のり”という感じです。GROOVEの由来ですが、Pepperの開発をしていた時に、最初にエンジニアだけで開発していたら、非常に面白くないロボットができたんですよね。例えば、手を振るという動作も人によって千差万別で、振り方一つで個性も優しさも出せます。そこまで考えて造りこまないとロボットは人の心に訴えかけることはできないと気づいた時に、色々な人たちの協力を得ることにしたのです。エンジニアだけではなくて、ダンサーやお笑いの人、テレビのプロデューサーもいます。そういう人たちがgroove感を持って仕事をしていたように僕には思えて、そういう色々な分野の人たちがグルーブできるような会社をつくることができれば、新しい何かが生まれるのではないかと思ったのです」



BtoCのマーケットは大きい

原田 「経営である以上は利益を出さなければいけません。...


■はらだ・えいこう
1972年日本NCR株式会社入社。研究開発部。90年アップルコンピュータ・ジャパン(当時)入社マーケティング部長。96年米国アップルコンピュータ社バイスプレジデント就任(米国本社勤務)。1997年アップルコンピュータ代表取締役社長兼米国アップルコンピュータ副社長就任。2004年2月日本マクドナルド代表取締役会長兼社長兼CEO就任。05年西友/Walmart社外取締役就任。13年ソニー社外取締役、ベネッセホールディングス社外取締役就任。14年ベネッセホールディングス代表取締役会長兼社長就任。16年6月同社退任。19年12月ゴンチャジャパン代表取締役会長兼社長兼CEO就任、ゴンチャグループグローバルシニアリーダーシップチームメンバー就任。株式会社原田泳幸事務所代表取締役社長。

■はやし・かなめ
1973年愛知県生まれ。98年トヨタ自動車にてキャリアスタート。スーパーカー“LFA”等の空力(エアロダイナミクス)開発、2003年同社F1(Formula 1)の空力開発、04年Toyota Motorsports GmbH (ドイツ)にて F1の空力開発、07年トヨタ自動車 製品企画部(Z)にて量産車開発マネジメントに携わり、11年孫正義後継者育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」外部第一期生。12年ソフトバンク 感情認識パーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」の開発に携わる。15年GROOVE X創業、代表取締役に就任。16年シードラウンドとして国内最大級となる14億円の資金調達完了。17年シリーズAラウンドにて43億5千万円の資金調達完了。18年LOVEをはぐくむ家族型ロボット「LOVOT[らぼっと]」製品発表。19年 世界最大級の家電見本市CES2019にてThe VERGEのBEST ROBOT受賞。COOL JAPAN AWARD 2019受賞。シリーズBラウンド資金調達完了し、調達累計額は103.8億円(2020年1月29日時点)。CES 2020 INNOVATION AWARD受賞、『LOVOT』出荷を開始。20年世界最大級の家電見本市CES2020にて『Refinery29』のBEST OF CES受賞、Ici TOU. TVの『The Favorite product of Planète Techno』受賞。

■くぼた・ともひこ
UBS証券、ソニー、GCAを経て、2014年にデジタル・テクノロジー分野でのインキュベーション事業を手掛けるGCAの子会社アンプリアの代表取締役に就任。15年以上に渡り、メディア、テクノロジー業界にて、日本企業と米国のテクノロジベースの企業とのM&Aや戦略的アライアンスを実現。日米のメディアおよびデジタル・テクノロジー企業をクライアントとしている他、メディアおよびテクノロジー業界でのカンファレンスにも多数スピーカーとして参加。17年7月に日本での体制強化に伴い、GCAテクノベーションに商号変更。



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