[産業構造の変化に対応するM&Aの実務]
2013年9月号 227号
(2013/08/15)
日本は少子高齢化および人口の減少の問題を抱えています。この影響を最も強く受ける業界の一つとして、人の生死にかかわる保険を取り扱う保険業界があります。
生命保険は人口の減少と共に保有契約の減少が続いており、国内事業の再編や外資系保険会社の撤退が相次いでいます。損害保険業界は、自然災害に対する保険金の支払いや主力の自動車保険の低迷で厳しい経営環境にあります。生命保険と損害保険は国内外の市場でどのように変化を遂げているのでしょうか。
人口増加が続く新興国はフロンティアとなるのでしょうか。また、ユーロ危機の克服と厳しい規制への対応が必要な欧米の保険会社はM&Aの対象となるのでしょうか。新たな外部成長のシナリオを描く保険会社のM&Aとアドバイザーが務める実務について、検討を進めたいと思います。
1. はじめに
(1) 人口減少が生命保険に及ぼす影響
日本の生命保険業界は、人口高齢化と少子化による人口の減少の影響を強く受けています。日本の人口は1967年に1億人を超えて以降、2010年に1億2800万人に達し、ほぼピークを迎えたと言われています。今後、2046年には9900万人、2065年には8900万人に減少すると予想されています。(総務省「人口推計」)
保険業界では、各社の経営努力にも関わらず、生命保険の保有契約の減少が続いています。2001年に1300兆円あった保有契約高は2008年に1000兆円を下回り、2010年には900兆円、今後も減少するものと想定されています。(生命保険協会「生命保険統計」)
(2) 災害の発生と自動車保険の伸び悩み
それでは、損害保険業界はどうでしょうか。東日本大震災やタイの洪水などの大規模災害の発生による保険金の支払いにより、多くの損害保険会社の採算は悪化しています。
主力の自動車保険は、エコカー減税などの一時的な好影響はあったものの、国内自動車市場の伸び悩みや若者の自動車離れなどの社会ニーズの変化で苦戦しています。事故率の高い高齢者ドライバーへの支払保険金増加による収支の悪化、海外保険会社やインターネット販売の普及に伴う保険料の安値競争の影響を受けて、損害保険会社の将来の成長シナリオが描き難くなっています。
2. 保険業界の変化
(1) 生保の銀行窓口販売の拡大
生命保険の販売の主役は生保レディと呼ばれる女性の営業職員による個人保険の販売でした。近年では、銀行窓口販売を通じて、一時払い保険や年金保険の販売が拡大しています。生命保険会社としては、銀行との関係の強化や金融商品としての保険の優位性を示すことが課題となっています。
(2)損害保険の代理店は高齢化
損害保険業界は、全国に張りめぐらせた代理店網を中心に保険販売を行ってきました。最近では、ITを活用した販売ツール、代理店手数料体系の見直し、個人のニーズに合わせたコンサルティング営業力が求められています。しかしながら、損保代理店の経営者の高齢化により、新しい分野に取り組み難くなっている実情があります。
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