はじめに 6月5日に開催された金融審議会において、
公開買付規制(TOB規制)の本格的な見直し等に向けた議論がスタートした。夏秋冬の議論を経て、早ければ2024年の次期通常国会で金商法改正案が審議される見通しである。金融審では、①TOB規制の市場内取引等への適用範囲拡大、②大量保有報告制度の実効性確保策、③実質株主の透明性確保、の3点が主に議論される。
TOBは上場企業株式の公開買付けによる支配権獲得だから、この議論は、当該株式が取引される上場市場の在り方、ひいては、上場企業の在り方と密接な関係にある。本稿では、およそ17年ぶりとなるTOB規制の見直しに際して、わが国上場市場のあるべき行方を踏まえ、上場企業の
企業価値向上に資するために、上記3点の制度改正がいかにあるべきかを論じてみたい。
1.わが国の上場市場、上場企業の状況 (1)欧米対比で数多く、収益性やPBRが低い上場企業 先進国の上場企業数は、カナダやシンガポールなどスタートアップ支援・誘致で上場企業数を増やしている国を除き、ここ20年で大きく減少した。上場企業数減少の結果、米国では上場企業の大型化と利益率上昇が顕著となった(図表1)。他方、わが国の経済規模対比の上場企業数は米英独仏の4倍程度と多く、すそ野が広い分、収益率が低く、平均
PBRも低い(図表2)。
(図表2)各国の上場企業の状況の整理 | | 上場企業数(2020年、米国のみ22年)(A) | 名目GDP(兆$、2022年)(B) | A/B倍 | 考え得る理由 | PBR1倍割れ企業の比率 |
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先 進 国 | 米国(NASDAQ、NYSE) | 6391 | 25.5 | 251 | 先進国と新興国の大国では… | 5% |
日本 | 3754 | 4.2 | 887 | 43% |