[M&A戦略と法務]

2019年9月号 299号

(2019/08/15)

SDGs・ESG投資とM&A

篠原 一生(TMI総合法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース
1. はじめに

 2015年9月25日に開催された第70回国連総会において、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以下「2030アジェンダ」という)が採択されて以来、国連加盟国における政府機関や多くの企業において、SDGs(Sustainable Development Goals)に対する関心が高まっている。SDGsについては、2030アジェンダが採択されて以降、定期的に進捗報告がされているところであり(注1)、近年、日本でも各方面において徐々に取組みが進んでいる(注2)。

 本稿では、SDGsについて簡単に解説を行うとともに、企業が海外におけるM&A、投資、事業提携及び技術援助等を通じて、SDGsに関する取組みを実現することができる可能性について検討を行うこととしたい(注3)。


2. SDGs・ESG投資とは

 SDGsとは、「持続可能な開発目標」又は「持続可能な発展目標」と訳され、2030アジェンダに記載された2016年から2030年までの持続可能な開発に向けた国際目標をいう。

 2030アジェンダにおいては、まず、実現すべき価値として、「人間:People」「地球:Planet」「繁栄:Prosperity」「平和:Peace」「パートナーシップ:Partnership」の5つのPを掲げている。次に、SDGsの重要なコンセプトの一つでもある「誰一人取り残さない」等の考え方が示され、その後に17の目標(「Goals」)と169のターゲットが記載されている。具体的な目標としては「1 貧困をなくそう」「2 飢餓をゼロに」「3 全ての人に健康と福祉を」といったものが掲げられ、どのような目標があるかが一覧できるものとしては、<図1>のタイル図が有名である(注4)。

図1

 各企業が行っているビジネスの内容に左右される面もあるが、本稿との関係では、各目標のうち、特に「9 産業と技術革新の基盤をつくろう」「17 パートナーシップで目標を達成しよう」等の項目が重要である。実は、SDGsが国連において採択される前に、前身としてMDGs(国連ミレニアム開発目標:Millennium Development Goals)が存在していた(注5)。SDGsもMDGsも、持続可能な開発目標という基本的な姿勢や究極の目的という意味においては同じであるものの、SDGsにおいては、MDGsになかった持続可能な産業化、技術革新やイノベーション等の、産業と経済に関する項目が加わったという点で大きな違いがある。この点は、企業が、寄付やボランティア等により社会貢献を行うのみならず、各企業のもつ技術力、製品、サービスを活かして事業そのものにより社会的課題の解決を行うことが期待されているという点に意義があると考えられている(注6)。

 なお、SDGsに類似する概念として、CSR(企業の社会的責任:Corporate Social Responsibility)や、ESG投資などといったものが存在する(注7)。まず、CSRについては、厳密な定義や背景を辿ると、SDGsと全く同義であるとはいえない側面もある。しかしながら、誤解を恐れずにいうと、その目的とするところや、各企業が実際に行う取組みというレベルで見れば、SDGsとほぼ同様の考え方であり、各企業が具体的な取組みを行うにあたって何らかの区別を行う必要性があるものではないと考えて良い。次に、ESG投資は、投資判断において、従来型の財務情報だけを重視するだけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の視点も考慮に入れて行う投資手法であり、機関投資家を中心として、近時、急速に広まっている。ESG投資は、細かい用語の用法は措くとして、「責任投資(Responsible Investment)」、「持続可能な投資(Sustainable Investment)」などといった別称があることからも明らかなとおり、SDGsやCSRの考え方が投資先の選定という場面において用いられているものと考えて良い(注8)。


3.  SDGsに取り組む意義について

 次に、企業がSDGsに取り組む意義について触れる。まず、企業がSDGsに取り組むに際しては、仮にこの観点への配慮を欠くような活動が行われたとしても何らかの法規制の対象となるものではなく、直ちに法的な不利益が生じるものではない。しかし、
投資分析と意思決定プロセスにESG課題を取り込むこと等を内容とするPRI(Principle for Responsible Investment:国連責任投資原則)への署名機関は、2019年時点において50か国超から1400機関以上となっており、その合計資産が59兆米ドルもの規模となっていること(注9)
日本版スチュワードシップ・コードにおいて、機関投資家は、投資先の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、投資先企業の状況を確認すべきであると明記されていること(注10)
等の動きもあり、主に機関投資家からの投資を受ける上場企業については、自社の事業におけるSDGsに関する整理を行うことは、事実上必須の状況となっている。

 他方で、企業の大半が非上場企業であるという状況を踏まえると、多くの企業にとって、

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