[M&A戦略と法務]

2023年11月号 349号

(2023/10/11)

米国M&A実施時に押さえておきたい実務上の基本ポイント~米国独占禁止法を中心に~

田中 健太郎(TMI総合法律事務所 弁護士)
山﨑 真司(同 弁護士)
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第1 はじめに

 近時、米国M&Aにおけるトレンドの一つして、米国連邦取引委員会(Federal Trade Commission、以下「FTC」という)によるM&A取引に対する積極的な規制活動が注目されている。例えば、2022年12月、Microsoft Corp.によるゲーム会社大手Activision Blizzard Inc.の買収が米国独占禁止法(クレイトン法第7条)に違反するとしてFTCによって提訴された。また、Meta Platforms, Inc.(旧Facebook)によるWithin Unlimited, Inc.の買収についても、同様にしてFTCの「待った」がかかった。いずれのケースにおいても最終的にFTCの主張は認められなかったものの、2021年6月にリナ・カーン氏がFTC委員長に就任して以降、FTCによるM&A取引に対する米国独占禁止法審査が強化されたことは明らかである。また、2023年より、後述のHart-Scott-Rodino Act(以下「HSR法」という)に基づく事前届出のための費用も、特に大型案件において飛躍的に上昇している(注1)。さらに、同年7月19日には、米司法省とFTCがM&A取引を審査するための新しい指針を公表し、本稿執筆現在、パブリックコメント募集中のステータスとなっている。

 以上のトレンドを踏まえ、本稿では、米国M&A実施時に押さえておきたい実務上の基本ポイントの1つとして、米国M&Aに関連する米国独占禁止法の規制を概説したい。具体的には、①米国M&A関連の米国独占禁止法の基本であるHSR法に基づく事前届出の概要を整理しつつ、②M&A契約において重要となる独占禁止法関連の条項について解説する。後者については、日本国内のM&A取引交渉においても米国実務が参照・引用される傾向を少なからず感じることから、日々の国内ディールにおいても役立つよう、具体的な条項の内容も含めることとしたい(注2、注3)。

第2 HSR法に基づく届出

1. HSR法の概要

 HSR法は、クレイトン法第7A条の追加として1976年に成立した連邦法であるが、一定の要件を満たす合併、買収及び合弁等を実施しようとする場合には、当事者は、HSR法に基づき、FTCと米司法省反トラスト局に対する事前届出を行い、クリアランスを得る必要がある。

 なお、クレイトン法第7条は、米国独占禁止法の中でも直接的にM&Aを規制する連邦法の1つであり、「競争を実質的に減少させる可能性があるか、又は独占を生み出す可能性」(“the effect of such acquisition may be substantially to lessen competition, or to tend to create a monopoly”) がある買収を禁止している。

2. 届出の要否

 まず、HSR法に基づく事前届出の要否に関する閾値としては、①トランザクション・サイズによるテスト(The Size of Transaction Test)及び②当事者規模のテスト(The Size of Person Test)が存在する。これらは毎年更新される可能性があることに留意する必要がある。

 2023年現在における閾値は以下のとおりである。


■筆者プロフィール■
田中 健太郎(たなか・けんたろう)
TMI総合法律事務所弁護士。M&A、LBO、JV、フランチャイズ、サプライチェーン、スタートアップ投資等に従事。2018年にミシガンロースクールを卒業し、同年イリノイ州の弁護士資格を取得。米国及び欧州の法律事務所に出向した経験を踏まえ、国内案件だけでなく、クロスボーダー案件にも関与する。「業種別 法務デュー・ディリジェンス実務ハンドブック」(中央経済社 2018年)(共著)等の著書・論文を多数執筆。弁護士登録2010年。

山﨑 真司(やまざき・しんじ)
TMI総合法律事務所弁護士。M&A、コーポレートガバナンス、米国進出支援、米国雇用法等の実務に従事。2013年弁護士登録、2022年米国デューク大学ロースクール卒業(LL.M.)、2023年ニューヨーク州弁護士登録。

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