[M&Aトピックス]

(2021/10/22)

第15回M&Aフォーラム賞が決定―M&Aフォーラム賞『RECOF賞』などに5作品を選定

【受賞作品】                      

(所属は執筆または応募時点)

◆M&Aフォーラム賞 正賞『RECOF賞』
『M&A失敗の本質』
【著者】人見 健(株式会社NTTデータ経営研究所パートナー)

◆M&Aフォーラム賞 奨励賞『RECOF奨励賞』 2篇
『日米実務の比較でわかる 米国アウトバウンドM&A法務の手引き』
【編集代表者】大久保 涼(長島・大野・常松法律事務所ニューヨーク・オフィス共同代表)

『日本の持株会社:解禁20年後の景色』
【編者】下谷 政弘(京都大学名誉教授、福井県立大学名誉教授)/川本 真哉(南山大学経済学部准教授)

◆M&Aフォーラム賞 選考委員会特別賞『RECOF特別賞』 2篇
『上場子会社の完全子会社化における一般株主の利益保護』
【著者】加藤 優美(埼玉大学経済学部経済学科4年)

『日本の食品メーカーによる海外M&Aの成否とその要因に関する考察』
【著者】濱口 雅史(慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程2021年3月修了)


19作品が応募

  M&Aフォーラム賞選考委員会は、2020年度(令和2年度)「第15回M&Aフォーラム賞」に5作品を選定し、10月8日授賞式が行われた。なお、今年は新型コロナウイルス感染防止の観点から、オンラインにて開催された。

  「M&Aフォーラム」は、2005年の内閣府経済社会総合研究所の「M&A研究会」において民と官との連携ができる民間ベースのフォーラムが提唱されたことを受け2005年12月に設立され、今年で16年目を迎える。

 理論的、実証的及び実務的な視点から、進歩、変化するM&A事情の研究・調査を行い、今後の我が国におけるM&Aのあり方について提言を行うとともに、主に企業人を対象にした「M&A人材育成塾」の運営等の活動を通じて、M&Aの普及・啓発、人材や市場の育成に資することを目的としており、さまざまな関係分野の有識者、実務専門家、企業関係者が参加する場となっている。

 「M&Aフォーラム賞」は、2000年度に「M&Aに関する社会科学的観点からの研究論文の執筆で顕著な業績をあげた学生・院生を顕彰する懸賞論文制度」としてレコフが創設した『RECOF賞』が前身。M&Aフォーラムからの強い要請もあり、学識経験者、行政担当者、M&A専門家、企業関係者(実業界)ならびに大学院、大学、各種専門学校を含めた学生にいたるまで幅広い分野に対象を広げ、06年にM&Aフォーラム賞『RECOF賞』として引き継がれた。

 第15回を迎えた今回は、法律、経済、経営、税務・会計、ファイナンスなどをテーマにそれぞれの観点で掘り下げた、19の書籍・論文の応募があった。

 選考委員長の岩田一政氏(公益社団法人日本経済研究センター代表理事・理事長)のもと、大杉謙一氏(中央大学法科大学院教授)、西山茂氏(早稲田大学ビジネススクール教授)、丹羽昇一氏(レコフデータ専務理事)の3人の委員によって、

①作品が創造性に富んでいること
②理論的、実証的な分析を行っていること
③実用性・実務への応用可能性が高いこと
④問題点を先取りし、その解決の糸口を論じたもの
⑤M&Aの啓蒙に資するもので、業界全体への影響力が高いと判断されるもの

などが主な基準で審査が行われた。


岩田選考委員長による講評

岩田 一政 氏
 岩田選考委員長は、「本年の特徴は、クロスボーダーのM&Aに関連した法務や法制度、MBOと少数株主の保護、合弁事業、スタートアップなどに関連したM&A、のれんの会計処理、表明保証保険などについて質の高い作品が多数寄せられたことでした。さらに日本の持株会社の歴史的回顧や会社と株主および株主間契約に関する研究など多様で優秀な応募作品の順位付けを巡って、最後まで熟議を重ねました」

として、次のように講評を述べた。

「M&Aフォーラム賞正賞『RECOF賞』を受賞した人見健著『M&A失敗の本質』は、M&Aプロフェッショナル21年の経歴をもつ著者による日本企業によるM&A失敗の本質に迫る作品です。

 著者は、失敗の原因をその兆候も含めて7つに整理し、それぞれ具体例に即した解説をしています。本書の一貫した主張は、『M&A失敗の原因は社内にある』との指摘です。7つの失敗の種の解消は、経営者の思考改革にかかっており、M&Aは経営者の力量を図る試金石になっているともいえます。日本の長期停滞打破の突破口は、企業組織の自己革新を実現する経営者の双肩にかかっていることを説得的に論じた本書は、2014年度の第9回M&Aフォーラム賞正賞受賞作『海外企業買収 失敗の本質 戦略的アプローチ』に続く力作であります」

と高く評した。

 続いてM&Aフォーラム賞奨励賞『RECOF奨励賞』として、『日米実務の比較でわかる 米国アウトバウンドM&A法務の手引き』、『日本の持株会社:解禁20年後の景色』の2つの作品について述べた。

「大久保涼編集代表者『日米実務の比較でわかる 米国アウトバウンドM&A法務の手引き』は、日本企業がM&Aを通じて米国に進出しようとする場合に、日米両国における法制度とその適用、米国の訴訟社会と弁護士の役割、文化など様々な分野の相違を乗り超えるためにどのような点に留意すべきかを丁寧に解説したガイドブックです。

 そのカバーする内容は広範囲であり、非公開企業と公開企業によるM&Aの解説から始まり、米国に特有の規制についても簡潔かつ的確な説明を行っております。米中摩擦が高まる中で安全保障の観点からの規制が強まっており、日本企業がその対応を考える上での有用な資料として高く評価しました。

 下谷政弘、川本真哉編著『日本の持株会社:解禁20年後の景色』は、純粋持株会社が解禁されてから20数年経過した時点でその役割の変遷を回顧し、評価した学術研究書です。

 1997年の独占禁止法解禁がもたらしたものは何か、持株会社設立の現状とそのパフォーマンス評価を組織再編型(8割)と経営統合型(2割)に分類した上で、データに基づく実証分析を行なっています。組織再編型では、「戦略と事業運営の分離」が目的とされることが多いものの、実際には同一産業内の模倣的同形化や組織改革のコストが低いことが持株会社設立に繋がっていることなどが示されています」

と評した。

 続いて、M&Aフォーラム賞選考委員会特別賞『RECOF特別賞』として、『上場子会社の完全子会社化における一般株主の利益保護』、『日本の食品メーカーによる海外M&Aの成否とその要因に関する考察』について述べた。

「加藤優美著『上場子会社の完全子会社化における一般株主の利益保護』については、親子上場した企業が、組織再編や上場コスト削減のために子会社を完全子会社化する場合に、買収企業経営者と被買収企業の一般株主の間に存在する構造的利益相反関係によって、買収プレミアムが押し下げられる可能性がありますが、この一般株主の利益を保護するためのいくつかの公正性担保措置の有効性を論じた作品であります。

 仮説の設定が明確であり、得られた結論も説得的でした。学部生の論文として質が高く、しかも論理展開が素直な点を評価しました。

 濱口雅史著『日本の食品メーカーによる海外M&Aの成否とその要因に関する考察』は、海外M&A戦略に関する6つの仮説、先行研究および個別事例の動向を踏まえた上で食品メーカーによる海外M&Aの成否に影響を与える要因を分析しています。

  得られた結論は、事前にM&Aが中期計画などで戦略が意図されていること、現地法人のあること、ターゲットとする市場のカントリーリスクの低いことがその成功に寄与していると論じています。豊富なデータや事例の活用は高く評価されます」と締めくくった。 
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