[ポストM&A戦略]

2013年11月号 229号

(2013/10/15)

第59回 PMIにおける組織・人事のマネジメント・アジェンダ

 竹田 年朗(マーサー ジャパン グローバルM&Aコンサルティング プリンシパル)
  • A,B,EXコース

  大型案件であっても、あるいは大型案件であるほど、検討に要する期間と費用の関係からか、あるいは交渉戦略の関係からか、デューデリジェンス(DD)を限定的な範囲に留める例が散見される。つまり、買うのか買わないのか、そして買うとしたらいくらで買うのか、という意思決定の根幹事項に検討対象を厳格に絞り込んでいる。もちろんそのこと自体に常に問題があるわけではないが、DDが始まり本格的に情報が出始めてからサイニングまでの期間を短縮したがゆえに、サイニング後に「さてこれからどうしたものか」という状況に陥りがちである。
  とくに、対等的な合併・経営統合の場合には、組織統合が視野に入っているのに相手のことが皆目わかっていないので、「対等」とは言いながらも、組織・人事分野で経営の主導権をどう取るのか、あるいはこちらが主導権を取ることができるのかが気になってくる。かといって、そのような目先の利害かもしれないことに気を取られていて本当によいのか、という思いも湧いてくる。
  「マネジメント・アジェンダ」とは、M&A発表後の何も決まっていないとしか見えない混沌とした時期に、その先の秩序を形成する道筋であり、検討テーマのことである。今回は、この「マネジメント・アジェンダ」について論じることとする。

国造りの神様(ガバナンス)と国を治める王様(マネジメント)

  M&AをPMIの4類型で整理したのが(図)である。ここでは、買収後の組織のイメージとともに、M&Aの両当事者の力関係を軸に採用している。
  横軸は、組織統合の要否で切り分けている。本連載でこれまで何度か指摘したとおり、どのような組織形態を採用するかによって組織の基本的な効率が規定される一方で、組織の統合には多大なコストがかかることが避けられない。このため、組織統合は「要否」で考えるべきで、最終形において「できれば統合した方がよい」といった中間的な解を考えない方がよい。
  目につきやすいためか、組織統合においてはまず間接部門の統合が取りざたされることが多い。しかし、もちろん主戦場は直接部門の統合である。開発、生産、販売といったバリューチェーンの各領域で、あるいは各国・各地域で、果たして組織統合すべきかどうか、検討が行われる。一方で、これまで買い手がオペレーションを行っていない国でM&Aを行った場合など、検討するまでもなく組織統合があり得ない場合もある。組織統合しようにも、具体的な統合先がないからである。
  これに対して縦軸は、買収側と買収先の事業運営上(オペレーション上)の力関係を示している。図を簡便にするために「大差」と「拮抗」の二分法としたが、横軸と違って縦軸の方は、実際にはグラデーションがある。しかし、物事の特徴や違いを説明するには一旦は二分法で十分なので、このような図とした。
  大差がつくというのは、買収側と買収先の間に企業規模やオペレーションの明確な実力差があるということである。従って、組織統合をするのであれば、事業のやり方や会社運営の方法などは、格上の企業のやり方に合わせることから考えるのが合理的である。これが、図の左上段の「片寄せ(Assimilation)」と呼ばれる類型である。

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