[M&Aフォーラム賞]
2013年11月号 229号
(2013/10/15)
12作品が応募
M&Aフォーラム賞選考委員会は、2012年度(平成24年度)「第7回M&Aフォーラム賞」に4作品を選定し、2013年10月7日表彰式が行われた。
「M&Aフォーラム」は、05年10月の内閣府経済社会総合研究所の「M&A研究会」による中間報告において民と官との連携ができる民間ベースのフォーラムが提唱されたことを受けて05年12月に設立された。理論的、実証的及び実務的な視点から、進歩、変化するM&A事情の研究・調査を行い、今後のわが国におけるM&Aのあり方について提言を行うとともに、主に企業人を対象にした「M&A人材育成塾」の運営等の活動を通じて、M&Aの普及・啓発、人材や市場の育成に資することを目的としており、さまざまな関係分野の有識者、実務専門家、企業関係者が参加する場となっている。
「M&Aフォーラム賞」は、2000年度に「M&Aに関する社会科学的観点からの研究論文の執筆で顕著な業績をあげた学生・院生を顕彰する懸賞論文制度」としてレコフが創設した『RECOF賞』が前身で、M&Aフォーラムからの強い要請もあり、学識経験者、行政担当者、M&A専門家、企業関係者(実業界)ならびに大学院、大学、各種専門学校を含めた学生にいたるまで幅広い分野に対象を広げ、新たにM&Aフォーラム賞『RECOF賞』として引き継がれた。
第7回を迎えた今回は法律、税務、会計、経済に加え、組織・人事マネジメントとM&Aの実践的な技術など実務の分野を代表する著作12作品の応募があった。選考委員長の岩田一政氏(公益社団法人日本経済研究センター代表理事・理事長)のもと、大杉謙一氏(中央大学法科大学院教授)、西山茂氏 (早稲田大学ビジネススクール教授)、丹羽昇一氏(レコフデータ執行役員)の3人の委員によって、①作品が創造性に富んでいること、②実用性・実務への応用可能性が高いこと、③問題点を先取りし、その解決の糸口を論じたもの、④M&Aの啓蒙に資するもので、業界全体への影響力が高いと判断されるもの、⑤理論的・実証的な分析を行っているもの、という観点で審査が行われた。
岩田一政・選考委員長は、「2次審査に残った作品はいずれも秀作でした。とりわけ、受賞された4作品は、ランク付けすることが極めて困難でありました」として、次のように講評を述べた。
「白井正和著『友好的買収の場面における取締役に対する規律』は、友好的な買収ケースにおける経営者と株主の利益相反の観点から、取締役に対する規律のあり方を論じた本格的な学術書です。
米国におけるデラウェア会社法は、私的な秩序形成を広く許容する『授権アプローチ』を採用しています。本著作は、このデラウェア法の下における、裁判所による取締役の信認義務に関する判断を通じた柔軟な救済手段の提供を丁寧にレヴューしています。『経営判断原則』か、または、『完全な公正の基準』という二分法から始まり、中間的な『レブロン基準』や『ユノカル基準』の下での友好的買収の変遷と経営者と株主の間の潜在的な利益相反問題に対処するための全体像を概観しています。さらに踏み込んで、日本における規律のあり方、とりわけ、株主の最終的な判断基準の行使と裁判所が果たすべき役割を論じた最初の書であり、完成度の高い作品となっています。
上場会社による発行株式数に制限のある米国と異なり、日本では第三者割当増資による友好的買収が容易ですが、株主による最終判断権限が失われるという問題があります。組織再編にあたり、株主総会の特別決議を要求すること、裁判所による介入、例えば、差し止め、友好的買収の無効、損害賠償責任の追及などを通じた規律付け強化、より具体的には、善管注意義務・忠実義務違反の有無を判断する審査基準明確化を求めています。