[視点]

2014年2月特大号 232号

(2014/01/15)

会社法における2つの原則とその例外

 近藤 光男(神戸大学 教授)
  • A,B,EXコース

  会社法においては、かつて当然の前提とされていたと思われる原則について、今日ではむしろその例外をどのように位置づけるかが重要になってきているように思われる。

1 株主利益最大化基準とその例外

  (1)株主利益最大化基準における株主

  そのような原則の第1が、株主利益最大化基準である。この基準は株式会社の営利法人性を示すとともに、経営者の行為の正当性を根拠づけるものと思われる。すなわち、株式会社は株主への分配を目的としていることを前提に(会社法105条)、取締役は株主から業務執行について委任を受けており、株主利益最大化基準の下に業務執行を行うことで委任の趣旨に合致することとなる。株主利益最大化基準が、取締役にとって経営行動の規範となり、また取締役の行為が株主利益最大化基準に合致している範囲において、取締役には裁量が認められるということで、いわゆる経営判断原則の根拠となる。しかしながら、この場合の株主とは抽象的な株主であり、具体的な個々の株主ではないと考えられることから、多数派株主の意向と少数派株主の利益保護をどのようにバランスをとるかは問題となる。多数派株主の意向と少数株主の利益の調和の上に抽象的な株主の利益があるのであろうか。さらに、経営者は会社経営に当たって、株主以外の利益、従業員や顧客あるいは社会全体からの期待について、無関心でいてよいわけはない。しかし、これら多様な要請を抽象的な株主の利益の中に取り込んで考えるには、あまりにも現代社会は複雑過ぎると思われる。

  (2)経営者が考慮すべき要素

  たとえば敵対的な企業買収の局面でも、防衛策を具体的に実施するかどうか(制度として導入するかどうかではなく)の判断は現在の経営陣に任せることが適切な場合も多いと考えられる。もちろんそこでは、現経営陣の利益相反的要素を払拭することが不可欠である。しかし、その場合であっても経営者は株主利益最大化基準だけで行動するのが適切かどうか問題となる。

  企業不祥事はいつの時代にも見られるが、近時は、会社が社会から期待されていることについて、経営者が無関心あるいは軽視しているのではないかと感じることも少なくない。むしろ株主利益最大化基準が経営者を内向きにさせ、社会に対する配慮を犠牲にすることへの口実になっているのではないかとも感じられる。株主利益最大化の追及だけでは、社会から期待され必要とされるような事業展開ができるのかどうかが疑問となる。

  経営者の行動を規律するためには、あるいは経営者の法的責任の判断のためには、株主利益最大化基準が必要不可欠である。しかし、明確にそれに反するような行為であっても許容される例外的行動を認めるべきであり、それは社会全体の利益の観点から評価すべきなのではなかろうか。

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