[視点]

2015年1月号 243号

(2014/12/15)

今、企業の戦略課題とは何か

 小林 喜一郎(慶應義塾大学ビジネススクール 教授)
  • A,B,EXコース

1. 変化の時代における企業の戦略課題

  企業は時代に必要とされなければ生き残っていくことはできない。追随する同業者ばかりでなく、新規参入してこようとする他業種企業も相手に、今までのままの経営で良いわけがない。企業は人間ではない。生まれ、成長し、円熟し、衰退していくわけにはいかず、続いていかねばならないのである。そこで近年実務の世界で、さらには企業戦略の学会等でも取り上げられ、また経営者自体も課題であると考えている3つのトピックについて、その意味と日本企業の対処法について考えていきたいと思う。それらの課題は、1)持続可能性と企業戦略、2) 新興国発のイノベーション(リバース・イノベーション)、3)変化とスピード時代に迅速に対応できる現場組織、の3つである。

2.持続可能性と企業戦略

  まずは持続可能性(Sustainability)と企業経営についてである。新興諸国を中心とした人口の急増、深刻さを増す環境破壊、経済格差の拡大、労働問題、エネルギー問題、気候変動、先進国で起こる急速な高齢化等の社会問題が、まさに持続可能性という概念の必要性をもたらしてきた。そして経済活動の主体たる企業体にも社会構成員としての責任が問われるようになり、各社とも積極的にCSR(企業の社会的責任)を果たそうと努力してきたのである。

  当然のことながら戦略研究者も積極的な新理論を展開し、最近ではポーター&クラマー(2011)がCSRを戦略レベルにまで発展させたCSV(共通価値の創造)概念を(注1)、またハート(2008)が「社会的貢献を果たすと同時に企業価値を生み出す想像力と事業戦略に対する新たなアプローチ」を提言している(注2)。両者に共通しているのは、利潤の最大化という企業目標と社会に対する義務は対立概念でなく両立する、むしろ両立させるべき関係にあるという点である。

  私自身よく企業経営者に「御社のCSRは戦略ですか、それともコスト(義務)ですか?」と聞くことがある。結果は今のところコストととらえている経営者の方が多いようにも見えるが、実際の活動を見ると社会・地域に貢献しつつ事業を拡大させている例も見られ、徐々にではあるが社会に対する貢献が競争優位を確立するための戦略の根幹要素であるという認識がグローバル大企業を中心に浸透しつつあるように見える。P&G、ブリヂストン、三菱商事、キリン、日本郵船、キヤノンなどはまさに戦略の中枢の一つの要素として持続可能性戦略の推進に取り組んでいる例であろう。

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