[寄稿]
2016年8月号 262号
(2016/07/15)
一 はじめに
新聞紙面には、連日のように「コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)」、「インターネットオブシングス(IoT)」、「人工知能(AI)」、「ロボティクス(Robotics)」、「フィンテック(Fintech)」といった言葉が溢れている。日本の産業界をリードしてきた成熟企業においても、この流れに乗り遅れまいとして、業種の枠組みを超えて様々な連携を試みる動きがある(注1)。
成熟企業の中には、そのビジネスモデルの成熟化を感じるとともに、若手エンジニアの就業意識が大きく変化したことを認識する企業もあるようである。また、IT関連技術の進化を通じて技術開発のスピードが加速化し、開発コストが低減する傾向もみられる中で、必ずしも成熟企業の大規模な研究施設だけが、革新的なアイデア・技術が誕生する環境を提供するわけではないことも実感しているようにも見える。
そうした中で、成熟企業が、今後を見据えたベンチャー企業との付き合い方を模索し、新技術の開発、新分野への取り組みを、ベンチャー企業との連携や投資を通じて推進する傾向も見られる。こうした流れを受けて、ベンチャー企業を取り巻く投資環境もこれまで以上に熱くなっており、日本の新興市場もここ5年程の間に徐々に活力を取り戻している。
これまでに何度か「ベンチャーブーム」と言われる動きがあり、その中で苦い経験をした成熟企業も少なからずあると思われるが、最近では、成熟企業の中でもベンチャー企業特有の文化への理解度が増し、ベンチャー企業を取り巻くリスクに対する許容度の判断にも変化が出ているように思われる。
こうした傾向がベンチャー企業との提携やベンチャー企業に対する投資を更に加速することが想定されるが、その際に、成熟企業が認識すべきは、ベンチャーコミュニティーには特有の実務があり、時には「郷に入っては郷に従え」という意識を持つ必要があることであろう。もちろん、成熟企業は多数の一般株主を抱えていることが多く、株主への説明責任も負っていることから、一定の成果を目指してベンチャー企業との提携や投資を行う以上、条件交渉には最大限の力を注ぐべきとも言える。しかし、それが、ベンチャーコミュニティーでは、バランスを失していると捉えられる態様であれば、投資機会や提携機会を容易に失う可能性もある。時には、投資・提携の手法や投資後の管理のあり方を、ベンチャーコミュニティーの目線に合わせていく必要があることに留意すべきである。
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