[視点]

2017年8月号 274号

(2017/07/18)

事業譲渡と株式譲渡の選択

 丸山 宏(愛知産業大学 経営学部教授・経営学部長)
  • A,B,EXコース

事業譲渡と株式譲渡

  企業買収の方法として、ターゲット企業の資産を取得する事業譲渡とターゲット企業の株式を取得する株式譲渡(株式取得)がある。当事者に与える影響は、理想的な市場では、理論上、無差別であるが、実際には、税制の存在や情報の非対称性により、売手、買手の双方に有利・不利な影響を与える。
  一般には、企業・資産取得による価値の増加が取得価格より大であれば、買手の企業価値、したがって買手株主の富は増大するため、取得は株主にとって合理的な意思決定となる。増加する価値の分配が売手にも満足のいくものであれば、取引は成立する。しかし、事業譲渡と株式譲渡という2つの取引方法の存在を考慮すると、買手と売手が選好する取引方法が一致せず、取引の成立に至らない可能性がある。
  事業譲渡と株式譲渡という取引方法についての計量的な実証研究は、これまでほとんど行われていない。一般に、成立しなかった企業買収のデータは、一旦成立した取引が解消された場合等を除くと入手困難であるため、取引方法の不一致が企業買収に与える影響の程度について直接検証することは困難である。また、2000年代に入り、事業譲渡・株式譲渡の件数は急増しており、その大半を占める非上場企業のデータも利用することは簡単ではない。であるからと言って、上場企業に対象を限定すると、計量的な分析に必要なサンプル数が確保できない可能性が大きい。
  このような問題をクリアーするため、私は、経営破綻後の法的整理企業の事業譲渡・株式譲渡のデータを分析対象とした。破綻した企業については、上場・非上場を問わず、信用調査機関等を通して財務等のデータが利用可能なケースが少なくない。これら財務等データとM&Aデータベースとを統合して作成したデータを対象とし、取引形態としての事業譲渡と株式譲渡の選択要因を計量的に検証した(注1)。

事業譲渡と株式譲渡の選択の傾向

  株式譲渡と事業譲渡には、それぞれメリット、デメリットがあるが、一般的傾向としては、手続きを迅速に進めることができる株式譲渡で売買取引が進められ、株式譲渡による売買が困難な場合、事業譲渡が検討されるケースが多いようである。
  この傾向は、わが国の事業譲渡と株式譲渡の件数の推移を示す表1からも読み取れる。

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