[視点]

2019年2月号 292号

(2019/01/18)

「公正なM&Aの在り方に関する研究会」への期待

田中 亘(東京大学社会科学研究所 教授)
  • A,B,EXコース
 経済産業省は、平成30年11月7日、「公正なM&Aの在り方に関する研究会」(以下「研究会」という)の立ち上げを公表した(注1)。
 同省はかつて、MBO(マネジメント・バイアウト)に関する公正なルールのあり方を提示するため、平成19年9月4日に「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(MBO指針)を公表した(注2)。MBO指針は、①株主の適切な判断機会の確保、②意思決定過程における恣意性の排除、③価格の適正性を担保する客観的状況の確保のための実務上の対応例を提案している(注3)。それらの対応例の多くが実務に採用されており、同指針が実務に与えた影響は大きいと評価されている(注4)。
 今般、新たな研究会が立ち上がったのは、MBO指針策定後10年を経過し、その間の実務・裁判例等の蓄積や、企業統治改革等の経済状況の変化を踏まえ、MBO指針の見直しの要否を含め、わが国の公正なM&Aのあり方について検討を行うためであるとされている(注5)。
 研究会で予想される論点の一つとして、MBO指針を見直すとした場合に、その対象をMBOだけでなく、支配株主と従属会社間の取引(上場子会社の完全子会社化等)を含む利益相反構造のあるM&A一般に拡大するかどうか、という点が挙げられる。MBO指針は、MBOを中心的な検討対象としたため、その指針が、支配株主と従属会社間の取引にも当てはまるとは、実務上、必ずしも理解されてこなかったようである。そのことを示す例として、M&Aの是非および買収条件について判断を行う特別委員会(独立委員会、第三者委員会ともいう)の設置は、MBOについては2013年頃までにほぼ常態となったが、支配株主と従属会社間の取引では必ずしも一般的でなかったことが挙げられる(注6)。もっとも、2014年以降は、公開買付けの場合は、MBOであると支配株主と従属会社間の取引であるとを問わず、特別委員会の設置が常態になったと見られる(注7)。けれども、支配株主と従属会社間の組織再編(ここでは、支配・従属会社間の株式交換や合併で、支配会社株式を対価とするものをいう)の場合は、特別委員会の設置が一般的とは必ずしもいえないようである(注8)。また、対象会社株主に対する情報開示の程度についても、公開買付けと組織再編とでは差があるようである(注9)。こうした実務の違いによるものかどうかは不明であるものの、日本では、支配株主と従属会社間の組織再編は、公開買付け(支配株主によるものとそれ以外のものを含む)と比べ、対象会社株主に支払われる買収プレミアムが低い傾向があるようである(注10)。これは、外国(少なくとも米国)では必ずしも見られない現象のように思われる(注11)。
 新たな指針の対象に支配株主と従属会社間の取引を加えることには、特に企業実務家の間で慎重論も強い。研究会では、慎重論の根拠として、①一般に、

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