本インタビューは、M&A専門誌マール 2021年4月号 通巻318号(2021/3/15発売予定)の記事です。速報性を重視し、先行リリースしました。
持続可能性の危機に直面するローカル経済圏
―― このほど、経営共創基盤(IGPI)の子会社として地域密着型企業を支援する投資会社「日本共創プラットフォーム(JPiX)」を設立されました。まず、JPiX立ち上げの経緯からお聞かせください。
「JPiX立ち上げについては、マクロ的な要因とミクロ的な要因があります。まずマクロ的な要因の話を申し上げると、もともと産業再生機構のCOO時代からグローバル大企業の活性化はもとより大事なことですが、それだけでは日本の経済自体に及ぼし得るインパクトは大きくないという思いがありました。というのは、グローバル産業というのは事業の成長論理を追求すればするほど経済活動は海外に向かって行きます。典型的なのは米国のシリコンバレーが生んだ巨大企業です。知識型産業ですから事業が成功しても米国内に多くの中産階級雇用を生んでいるわけではありません。これは第4次産業革命の結果でもあるのですが、翻って日本経済の活性化を考えると、ローカルな地域密着型の産業群の生産性を高めて所得水準を上げていかないと真の日本経済再生にはつながらないのではないかと考えていたのです。
GDPの7割、雇用の8割を構成するローカル経済圏は、我が国の基幹産業であるサービス産業を中心とした地域密着型の産業群で構成されていますが、労働生産性の課題や事業承継等の問題を抱えています。また、かつて地域経済を支えていた製造業についても事業環境は厳しく、ローカル経済圏は持続可能性の危機に直面していて、わが国の未来にとって重要な課題となっています。そこで、IGPIを立ち上げて実際に旅館の再建や公共交通機関の再建を行ってきたわけですが、我々から見ると経営改善の余地がある事業が数多く存在しているにもかかわらず、新型コロナ(COVID-19)感染拡大によって、このような課題を抱えているローカル経済圏は、更なる深刻なダメージを与えられるという状況になっています。一方で、AIやIoT、ロボティクス等のデジタル技術が進化し、DX(デジタルトランスフォーメーション)による勝ち組、負け組の格差が欧米で鮮明化してきたこともあって、日本のローカル経済圏の活性化のためにこの領域の仕事をもっと本格的にやりたいと思うようになったというのがJPiX設立のマクロ的な要因です」
みちのりホールディングスの成功経験を活かす
「ミクロ的な要因としては、ローカルな中堅中小企業の再生を考えた時に、アドバイザリー的なアプローチではフィーが高くなりすぎるという経済的な現状があります。実際、IGPI本体はどちらかというとアドバイザリー型になっていますからハンズオンで再生を行うとなると高いコストがかかります。そこで、我々はIGPIの100%出資によって『みちのりホールディングス(HD)』を持株会社として設立して、東日本の広域で交通・観光事業を展開するグループを作りました。傘下には、福島交通グループ、茨城交通グループ、岩手県北バスグループ、関東自動車グループ、会津バスグループ及び湘南モノレールの6つの交通事業グループがあり、旅行代理店業務やホテルなどの観光事業も行い、地域をまたぐ広域連携を通じて地方の交通事業・観光事業会社の経営の長期的な持続性の確保に取り組んでいます。この、みちのりHDの実践を通じて、経済的に成り立つビジネスモデルという観点から言うと投資型でやった方が有効だとずっと思っていて、そうした役割を担うプラットフォームを立ち上げられないかと考えるようになったのです」
種類株式を発行して資金調達
―― JPiXは、ゆうちょ銀行やKDDIなど8社から数百億円を調達したということですが、どのような手法で行われたのですか。