[M&A戦略と法務]

2022年10月号 336号

(2022/09/09)

行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)の概要と利用する際の検討事項

和藤 誠治(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
田椽 史也(TMI総合法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース
1. はじめに

 上場会社における主な資金調達方法として、金融機関からの借入れ、社債、株式の公募、株主割当、第三者割当、新株予約権新株予約権付社債等が考えられるところ、その方法の1つとして行使価額修正条項付新株予約権がある。実務上、MSワラント(Moving Strike Warrant)等と呼ばれることが多い。

 2021年に上場会社においてMSワラントの発行が適時開示された件数は、68件にのぼる(執筆者調べ)。

 このように、MSワラントの利用が一定程度見受けられる一方、MSワラントの概念や設計は必ずしもなじみが深いものではないと思われ、かつ、法規制や実務上の留意点も多く存在するため、本稿では、MSワラントの概要、検討事項の一部等を説明することとする。

2. MSワラントの概要・特徴

(1) MSワラントの概要


 MSワラントについて、法令上の定義は存在しないものの、新株予約権であり、かつ、一般に、行使価額修正条項が付されており、行使価額が行使時点の市場株価を基準に数%ディスカウントされる等して修正されていくものである。なお、取引所規則(以下では、株式会社東京証券取引所が定める有価証券上場規程等に言及する。)において、CB等及びMSCB等の定義が定められており、CB等とは、上場会社が第三者割当により発行する新株予約権、新株予約権付社債、取得請求権付株式をいい、MSCB等は、CB等のうち、新株予約権の行使に際して払込みをなすべき1株当たりの額(以下「行使価額」という)が、6カ月間に1回を超える頻度で、当該新株予約権の行使により交付される上場株券等の価格を基準として修正が行われ得る旨の発行条件が付されているものをいうところ(有価証券上場規程410条・有価証券上場規程施行規則411条2項参照)、MSワラントは、MSCB等に該当し、MSCB等に関する規制を受ける。

 会社がMSワラントを発行する際の大まかな流れは、以下のとおりである。即ち、発行会社は、実務上一般に、証券会社、ファンド、事業会社等の特定の第三者(以下「割当先」という)に対して有償でMSワラントを発行する。他方、割当先は、発行を受けた後、基本的に、1~2年程度の行使期間中、時期を分けて多数回にわたりMSワラントを行使し、当該行使に際して出資される財産を払い込み、発行会社の株式を取得する。発行会社にとっては、割当先により行使されることにより、資金調達が主に実現される。特に、行使価額が固定されている新株予約権の場合、行使価額が、新株予約権発行時の市場株価を基準に固定金額で定められていることが多いが、MSワラントの場合、行使価額が変動し、行使時前日の市場株価を基準に、数%ディスカウントされる方法で、定められていることが多い。

 そのため、割当先がMSワラントを行使する場合、当該行使時点の市場株価と同額の金銭を払い込むのではなく、基本的に、当該行使時点の市場株価から数%ディスカウントした金額の金銭を払い込めば、株式を取得することができることとなる。なお、行使価額が発行時点での市場株価に比してあまりにも低額に修正されないよう、実務上、行使価額の下限が設定されている。

 これらを図示すると以下のとおりとなる。

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