[寄稿・寄稿フォーラム]

2022年5月号 331号

(2022/04/11)

米国における私募ファンドの投資顧問業者に対する新たなSEC規則案の公表

大久保 涼(長島・大野・常松法律事務所ニューヨークオフィス 弁護士・ニューヨーク州弁護士)
長谷川 紘(長島・大野・常松法律事務所ニューヨークオフィス 弁護士・ニューヨーク州弁護士)
  • A,B,EXコース
1.はじめに

 2022年2月9日、米国証券取引委員会(以下「SEC」という)は、連邦における投資顧問業者(investment advisers (注1))に対する業規制法である1940年投資顧問法(Investment Advisers Act of 1940、以下「投資顧問法」という)に基づくSEC規則の改正案の提言「Private Fund Advisers; Documentation of Registered Investment Adviser Compliance Reviews (注2)」(以下「本提言」といい、本提言における改正後の規則案を「本規則案」という)を公表し、パブリックコメントに付した。

 本規則案は、投資顧問法に基づく従前の規制に概要以下の規制を追加するものである。

(1)四半期報告義務
私募ファンドの投資顧問業者に対して、私募ファンドのアドバイザー報酬及びファンド費用とその運用実績について四半期毎の投資家への情報提供を義務付ける。
(2)監査義務
私募ファンドの投資顧問業者に対して、自らが運用する各私募ファンドについて年次の財務諸表監査を義務付ける。
(3)独立意見書の取得義務
私募ファンドの投資顧問業者に対して、一定の取引を自らが運用する私募ファンドとの間で主導して行う場合、第三者からの独立意見書の取得を義務付ける。
(4)禁止行為
私募ファンドの投資顧問業者について、一定の利益相反等のおそれのある行為を類型化し、禁止する。
(5)一部の投資家の優遇の制限
私募ファンドの投資顧問業者について、私募ファンドの一部の投資家に優遇した条件を与えることに一定の制限を設ける。

 本規則案は、既存の私募ファンドの投資顧問業者に対して重大な影響を与え得るものであることから、本稿では本規則案の概要を説明するとともに、日本への影響を含め、実務上の留意点について説明する。


2.経緯

 近年米国においては、ヘッジファンド、プライベート・エクイティファンド、ベンチャー・キャピタルファンド等の私募ファンドの活用が拡大している。SECによれば、2021年11月30日時点でSECに登録された私募ファンドの投資顧問業者の数は5,037にのぼり、運用高は18兆ドル超に及ぶ (注3)。特に近年では、州や自治体の年金制度、私的年金その他の退職年金制度、大学の基金、NPO及び個人の投資家が増加するなど私募ファンドの投資家層の裾野が拡大しており、また、これらの裏には更に多数の個人をはじめとする投資家が存在することを踏まえると、私募ファンドの直接・間接の影響力が拡大していることが指摘されている (注4)。

 一方で、投資顧問業者による私募ファンド運営については、従前から次のような問題点が指摘されてきた。第一に、ファンド運用の不透明性である。SECは、投資顧問業者による投資家に対するアドバイザー報酬及びファンド費用や運用実績についての情報開示が不十分であり、投資家と投資顧問業者との間の情報格差が深刻となっている事例や、一部の投資家に優先的に情報開示がなされ、投資家間で不平等な取扱いが行われている事例などが存在することを指摘している (注5)。第二に、投資顧問業者と私募ファンド(及び究極的には投資家)との間の利益相反関係性である。SECは、投資顧問業者が、私募ファンドを実際にコントロールする立場であることを利用して、高額・不透明なアドバイザー報酬を投資顧問業者に支払わせたり、ファンドの投資先の企業に投資顧問業者自身又はその関連会社のサービスを利用するよう指示し、その際当該サービスに対する報酬等が独立第三者間の条件ではなく過大になっているなど、投資家の不利益となるような事例が存在することを指摘している (注6)。

 SECは2007年から2008年にかけてのリーマンショックを受け、ドットフランク法の制定を通じた投資顧問法の改正により、私募ファンドの投資顧問業者の登録義務や登録時のForm ADV及び原則年1回の継続的なForm PFによるSECへの継続報告義務を創設するなど、従前より私募ファンドの投資顧問業者に対して一定の監視を進めてきた。しかしながら、上記のような近年の私募ファンドの影響力拡大の一方で、不透明性や利益相反性に関する問題点が存続していることが、SECによる本規則案作成の端緒となったとSECは述べている。


3.本規則案の概要

(1) 四半期報告義務

 本規則案は、

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