創業家の決断 ベネッセホールディングス(HD)は、創業家が欧州の投資ファンドと組んで
MBOを実施し、2024年5月17日に上場廃止となった。
EQTが特別目的会社(SPC)を設立し、
TOBなどで約83%のベネッセHD株を約2080億円で取得。その後、残りの約17%の株式を持つベネッセHD創業家の資産管理会社を
完全子会社化し、TOB完了後、SPCに対して創業家が出資する形を取った。最終的にはEQTが6割、創業家が4割のSPC株を保有するが、議決権ベースでは5割ずつとした。
ベネッセHDは中学校向けの図書や生徒手帳など制作・販売する福武書店として1955年に発足した。1962年には模擬試験(現「進研模試」)や小中高生向けの通信教育講座(現「進研ゼミ」)へと事業を拡大し、1995年に社名をベネッセコーポレーションに変更した。2000年に東証1部に上場(2022年4月に東証プライム市場に移行)。2009年に持株会社制へ移行し、社名を「ベネッセホールディングス」に変更している。
M&Aにも積極的に取り組み、1993年に米ベルリッツインターナショナル(現ベルリッツコーポレーション)を買収したほか、2012年に関西地区で学習塾を展開するアップを完全子会社化。2005年にはパソコンスクール最大手アビバジャパンの営業権を取得。さらに2007年には首都圏を中心に個別指導塾を展開する「東京個別指導学院」を子会社化。2009年に「株式会社東京教育研」を設立し、難関大学受験指導塾の「鉄緑会」事業を承継、2014年11月には子供向け英語教室のミネルヴァインテリジェンス(現ベネッセビースタジオ)を子会社化するなどして事業を拡大してきた。
しかし、2014年に起きた個人情報流出事件で通信教育「進研ゼミ」の会員数が2023年には2014年に比べて約4割減の160万人へと急減。2020年にサイマル・インターナショナル、2022年にはベルリッツを売却するなど経営改革を進めてきたものの、2019年3月期からの5カ年の中期経営計画で目標とした売上高6000億円、営業利益600億円は、最終年度2023年3月期の実績を見ると売上高4118億円(前期比4.6%減)、営業利益206億円(同2.2%増)と、大幅な未達に終わっている。学習塾業界2位の学研ホールディングスの売上高1641億円(2023年9月期)を大きく上回るものの、19歳以下の人口は、2015年の2200万人から、2030年には1700万人、2040年には1500万人に減少するとの予測もあり、経営環境は厳しさを増す。
出所・レコフデータ ベネッセHDは5カ年の中計未達を踏まえて、2023年5月に「変革事業計画」を発表し、進研ゼミや学校向け事業、塾・教室事業などからなる「コア教育」、入居介護事業の「コア介護」、大学・社会人向け教育や海外事業などの「新領域」の、3つのポートフォリオについて、成長のビジョンを打ち出した。そして、変革事業計画をスピーディーに進めるためには、MBOによる非上場化を避けて通れないと創業家、経営陣が判断、EQTをパートナーにTOBに踏み切った。
EQTはスウェーデンに本社を置く北欧最大の投資ファンド。運用資産残高は2024年6月末時点で2460億ユーロ(約38兆6220億円)。2021年に日本に進出、2022年には約20年の投資実績を持つアジア系の
ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)と統合した。BPEAは日本で
パイオニア、武州製薬など9件の投資実績がある。
ベネッセHDの創業家と組んでMBOを実施したEQTパートナーズジャパンの担当者である鬼塚哲郎・パートナーにMBOに至った経緯と今後の成長戦略支援について聞いた。
<インタビュー>
デジタルの融合とM&Aの活用で成長を図る
鬼塚 哲郎(EQTパートナーズジャパン パートナー)
- <目次>
- MBOを実施するに至った経緯
- デュー・ディリジェンスのポイント
- 議決権スキーム
- 教育業界市場の現状とベネッセHDの今後
- デジタルの融合で成長を図る
- ボルトオン型M&A
- 創業家が残る形でエグジット