[マールインタビュー]

2013年9月号 227号

(2013/08/15)

No.160 体験した企業買収の実像を小説で描き、日本のM&Aの発展に寄与する

 木俣 貴光(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 財務アドバイザリーサービス室長)
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木俣 貴光(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 財務アドバイザリーサービス室長)

想定外のことが起こる怖さ

-- アドバイザーの立場からM&Aをどうお感じですか。

  「M&Aの交渉では最後の最後まで何が起こるか分からない怖さがあります。知らない情報が出てきたり、想定外の事実が発覚したりすることがよくあります。私が体験した例で言えば、売り手の海外子会社のデューデリジェンスをしたところ、大きな粉飾が判明したのです。買い手が一番、欲しくて価値があると思っていたところが、逆に一番のリスク要因になってしまいました。買収の対象に海外事業を含めるか、断念するか。買い手も迷いました。こうしたときこそ、アドバイザーの真価が問われるのです。何とか事態を打開する道はないか。私は何度も現地調査をし、問題点と対策を検討し、合理的な企業価値算定(バリュエーション)を行い、予定通り海外事業も含めて買収をしてもらいました」

-- ほかにどんな体験がありますか。

   「ある大手の電機メーカーの下請け会社のオーナー経営者から売却を頼まれたことがあります。このメーカーは下請けを絞っていて、こことの取引口座があることはすごく価値がありました。しかし、会社を売ろうとすれば、当然、メーカーの了解をもらう必要があります。オーナーは、そのメーカーの会長と長年、懇意でした。それで了解を取るのは、そんなに難しくないと思っていました。ただ、遅れると全体に影響するので、私は早めに話してくださいよ、と言っていたのですが、オーナーはずるずる先延ばしをしていました。基本合意を結び、いよいよ最後段階になって、『やはり言えません。もし、心証を害し、取引が切られたらM&Aどころか会社の存続も危うくなる。私はまだ60歳だ。何も、今すぐ売らなくてもいい。M&Aは一旦、延期する』と。買い手候補とは大きなシナジー効果も見込まれ、売り手企業にとってもこの上ない相手であったため、このときは、私はもう必死に説得しました。何とか、オーナーに会長と会ってもらい、了解を取り付け、無事、売却にこぎつけました」

-- まだありますか。

   「最近、一番大変だったのは、3.11の東日本大震災のときです。私が買い手側についた案件があって、その最終契約の調印日はたまたま大震災から1週間ほど後の日付になっていました。すでに話はまとまっていて、あとは印鑑を押すだけなので、郵送で行うことにしていました。売り手は印鑑を押して、買い手に契約書を送っていました。私は当然、買い手も押印して、送り返しているものと思っていたところ、調印日の翌日ごろ、買い手から電話がかかってきました。『どうも売り手の大口得意先が被災しているらしい。企業価値が損なわれている可能性があるので押印できない。当分延期だ』と言い出しました。これでは、売り手も怒ります。訴えられるかもしれません。さて、どうしたものか。確かに企業価値が減じているリスクはある。今後、影響がどうなるか、よく分からない。それで、売り手にお願いして、買収価格を少しですが引き下げてもらい、さらに修正条項を入れてもらいました。もし、被災地の大口得意先との取引がここまでに縮小したら、あとで買収価格を一部払い戻してもらうことにしたのです。買い手も納得し、予定通り3月末にクロージングして、事なきを得ました。天災も含め、本当にM&Aでは何が起こるか分からない怖さを改めて実感しました」

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