[マールインタビュー]

2013年11月号 229号

(2013/10/15)

No.161 M&A会計士の経歴を生かし、中堅・中小企業M&Aの発展に力を入れる

 澤村 八大(日本M&Aセンター執行役員 コーポレートアドバイザー室長)
  • A,B,EXコース

澤村 八大(日本M&Aセンター執行役員 コーポレートアドバイザー室長)

企業評価の出し方

-- マールで、以前、『M&A会計士がゆく』のご執筆をいただき、有り難うございます。今、どんなお仕事をされているのですか。

  「日本M&Aセンターに勤めています。後継者問題に悩む中堅・中小企業の経営者を支援するためのM&Aに特化した会社で、私はコーポレートアドバイザー室長です。室には、公認会計士、税理士、司法書士、弁護士などの有資格者が計12人います。東京、大阪にまたがる組織ですが、私は大阪が好きなので大阪を中心に勤務し、ほぼ毎週、東京との間を行ったり来たりしています。今、当社にはフロントで営業活動をするコンサルタントが約100人いて、日々お客さまと接しています。我々の仕事はフロント部隊の支援です。フロント担当が自分で企業評価や情報収集をちゃんとできるようにツールをつくり、その使い方を研修し、ツールに基づいてきちんと仕事をやっているかをチェックしています。また、法務、会計、税務面で難しい問題が出てきたときなどは直接、出向いて、問題解決に当たっています」

-- 企業評価はどうやっているのですか。

   「基本的に時価純資産価額+営業権でやっています。中堅・中小企業の場合、実績の数値が会計監査を受けていませんから、資産や負債の状況を調べ、実態の時価純資産価額をつかみます。次に、営業権は一定の利益×年数という簡便な方法もありますが、当社ではもう少し複雑です。まず、その会社の正常利益を算出します。中小企業では、役員報酬をたくさんとっている会社もあれば、逆に手弁当でやっている会社もあります。それで、この業種でこの規模の会社を運営する場合、社長の報酬は例えば1200万円が妥当だといった感じで見直します。また節税目的で入っている役員保険も損益から除きます。こうして出した正常利益から投資家の期待利益を引き算します。期待利益は時価総資産価額に期待利回りの約4%をかけて算出します。期待利回りは、長期国債利回りとリスクプレミアムを加えた数字で、変動します。引き算の結果、正常利益が期待利益を上回っていたら正ののれん(営業権)、逆に下回っていたら負ののれんです。この数値に営業権の持続年数として3年から5年をかけて最終的に営業権の金額を算出しています。数式で示せば以下のようになります。
営業権=(正常利益-時価総資産価額×<長期国債利回り+リスクプレミアム>)×3~5(年)」

-- 営業権がつくと言っても、企業価値が時価純資産価額を下回ることもあるのですね。

   「現実問題として、不況業種や低迷している業種などではそうなることがあります。そのような場合、買い手も時価純資産以下でなければ、買いにくいと仰います。ただ、負ののれんがついた場合、それを丸々マイナスするか、ゼロと見るかはケースバイケースです。逆に、調剤薬局とか人気業種だと、時価純資産価額やプラスのれんがついて買われることが多いのが実状です」

-- <長期国債利回り+リスクプレミアム>は割引率をWACC(加重平均資本コスト)で出すときの株主資本コストと似ていますね。

   「似ていますが、当社は時価総資産をベースにした発想です。ROA(リターン・オン・アセット、総資産利益率)の世界です。ROAはこれだけの総資産があるのなら、これだけ利益があるでしょうという考え方です。過去、10年ほどの日本の上場会社全業種のROAの平均を出してみたら4%余りでした。ROAは、いろんな要因で変化しますが、国債もその一つです。それで、変数として国債をいれ、それにリスクプレミアムとして3%を上乗せしたらちょうどROAの数値とほぼバランスしました。したがって、WACCなどと比べると汎用性を重視した割り切った値と言えるかもしれません」

-- 売り手の年配の経営者の方々はこの営業権の数式を理解できますか。

   「これだったら、ぎりぎり分かってもらえます。これをDCF法でWACCとかβ値とか言い出すと、正直、わけが分からないという顔をされてしまいます(笑い)。そこを、同じ1億円の営業利益を計上している会社であっても、経営資源(総資産)が10億円の会社と100億円の会社とでは会社の収益力は違うでしょう、この点を営業権の考え方で調整していますと話すと、理解してもらえます」

-- なるほど、マイナスがついても納得しますね。澤村さんが開拓したのですか。

   「私が入る前からありました。意外と合理的で良い式なので、そのまま使っています。以前は、企業価値の選定も案件ごとにばらばらでしたが、それはおかしいので、上場前に標準化したと聞いています」

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