<ポイント>
〇2023年4月の倒産件数は610件発生し、12カ月連続で前年同月を上回った。
〇2022年度(2022年4月~2023年3月)の倒産件数は6799件。2019年度(8480件)以来3年ぶりに増加。年度末の2023年3月は800件(前年同月587件)に急増。
〇「物価高」「後継者難」「コロナ融資返済」「年金滞納企業の増加」等のリスク要因が重なる。
〇企業倒産は通常の場合、年後半に増える。取引先の与信判断基準を厳しくする必要性がある。企業の倒産リスクは確実に高まっており、2023年後半にかけて注視。
「ユニゾ倒産」の振り返りと整理 元・東証1部上場のユニゾホールディングス(東京)は4月26日、東京地裁へ
民事再生法の適用を申請した。負債総額は約1262億円にのぼり、今年最大の倒産となった。なお、ユニゾHDは同日付でスポンサー支援にかかる基本合意を日本産業推進機構グループとの間で締結しており、今後は同社支援の下で再生を目指す。
ユニゾHDは、旧・日本興業銀行(現・みずほ銀行)系の不動産会社、常和興産のビジネスホテル部門として1977年に設立以来、「ホテルユニゾ」「ユニゾイン」のブランド名でビジネスホテルの運営を展開していた。コロナ禍前までは積極的に業容を拡大し、2019年3月期には連結年収入高約560億円を計上していた。
ユニゾHDは、上場企業初となる「
EBO(従業員による買収)」の実施でも注目を集めた企業だった。米投資ファンドのローンスターによる支援を得て、2020年6月に株式上場を廃止していたが、ローンスターから借り入れた約2000億円にのぼる買収資金の返済負担が重荷となっていた。これに伴い、多額の資金流出が指摘されていたほか、コロナ禍でホテル事業も苦戦するなかで、資金繰りが急速に悪化していた。
この間、保有ビルの売却を進め、
私的整理を前提とした複数のスポンサー候補と協議を重ねていたが、1カ月後に迫った5月26日期日の100億円の社債償還原資の確保が困難となり、民事再生法による再建を目指すこととなった。
企業倒産の潮目の変化 ここにきて企業倒産の潮目が明らかに変わりつつある。前述のユニゾHDのほか、3月27日には、旧・産業革新機構(現・INCJ)が支援してきた有機ELディスプレイメーカー、JOLED(東京)が負債337億円を抱えて民事再生法を申請。千葉県内に複数の病院を運営する医療法人社団心和会(千葉)も、4月4日に民事再生法を申し立てた(負債132億円)。以前から信用不安が燻っていた「大型案件」がにわかに動き出したほか、各種コロナ支援策で歴史的な低水準が続いた倒産動向も2022年春に底を打ち、すでに増加に転じている(図表1)。
全国・全業種における2022年度(2022年4月~2023年3月)の倒産件数は6799件発生し、2019年度(8480件)以来3年ぶりの増加となった。大型倒産も目立つ(図表2)。
【図表2】2022年度(2022年4月~2023年3月)の主な大型倒産(負債総額順) | 商号 | 業種 | 負債 (百万円) | 態様 | 所在地 | 倒産月 |
---|
1 | マレリホールディングス㈱ | 持ち株会社 (自動車部品製造) | 1,185,626 | 民事再生法 | 埼玉県 | 6月 |
2 | ㈱JOLED | 有機ELディスプレイ製造 | 33,741 | 民事再生法 | 東京都 | 3月 |
3 | 神明畜産㈱ | 養豚業 | 29,456 | 民事再生法 | 東京都 | 9月 |
4 | ㈱肉の神明 | 食肉卸 | 20,804 | 民事再生法 | 東京都 | 9月 |
5 | ㈱SH東雲堂 (旧:㈱フタバ図書) | 書店 | 19,301 | 特別清算 | 広島県 | 6月 |
6 | 日本ロジステック㈱ | 倉庫など総合物流 | 15,103 | 民事再生法 | 東京都 | 8月 |
7 | ディー・エー・ピー・テクノロジー㈱ | プラズマディスプレイパネル製造 | 13,875 | 特別清算 | 福岡県 | 7月 |
8 | アイテック㈱ | 総合医療コンサルタント | 13,295 | 民事再生法 | 東京都 | 10月 |
9 | ㈱シナジアパワー | 新電力事業(PPS) | 13,000 | 破産 | 東京都 | 12月 |
10 | 富士たまご㈱ | 養鶏業 | 10,900 | 会社更生法 | 静岡県 | 11月 |
特に年度末の3月は800件(前年同月587件)に急増するなど、コロナ禍で長らく続いた月間400~500件台の水準を大きく上回った。14年ぶりに全業種で前年度を上回り、なかでも「建設」「運輸」「サービス」の増加が目立った。負債規模別にみると、「1億円未満」が全体の7割を超えており、企業倒産の中心は依然として中小・零細企業である状況に変化はない。
取材ベースでは多くの「コロナ融資後倒産」
負債総額も2兆3385億円に増加し、2021年度(1兆1828億円)のほぼ2倍に膨らんだ。これは、2022年6月に民事再生法を申請した自動車部品大手、マレリホールディングス(埼玉、負債1兆1856億円)の影響が大きい。このほか、前述のJOLED、養豚業の神明畜産(東京、負債294億円、2022年9月民事再生法)など、負債100億円を超える大型倒産が12件発生し、4年ぶりに前年度を上回っている。
2022年度の企業倒産の特徴は、いわゆるゼロゼロ融資に代表される手厚い制度融資や資金繰り支援の効果が薄れてきたタイミングで、「物価高」「後継者難」「コロナ融資返済」などの経営課題に直面し、事業継続をあきらめる中小企業が増えている点だ。実際、帝国データバンクの調べでも、これらの影響を受けた「関連倒産」が足元で増加基調を強めている。
2022年度に判明した『物価高倒産』は463件を数え、前年度(136件)から3.4倍に増加し、集計開始の2018年度以降で最多を記録した。原燃料・原材料などの「仕入れ価格上昇」のほか、取引先からの値下げ圧力等で価格転嫁できなかった「値上げ難」により、収益を維持できず倒産した企業を集計した。
業種別にみると、「運輸業」(83件)がトップとなり、「総合工事」(51件)、「食料品製造」(43件)、「飲食料品小売」(27件)などが続いた。図表をみても分かるように、全業種平均の価格転嫁率(39.9%)を下回る業種(運輸・倉庫業=20.0%、建設業=36.0%、飲食料品製造=36.3%など)を中心に、物価高倒産が相次いでいる(図表3)。
■筆者プロフィール■
内藤 修(ないとう・おさむ)
神奈川県出身。2000年に帝国データバンクに入社。本社情報部、産業調査部、東京支社情報部、横浜支店情報部を経て、2022年4月から現職。入社以来20年以上にわたって、企業取材、景気動向のマクロ分析とともに、注目業界の動向やトピックをまとめた『特別企画レポート』の作成を手がける。専門は、倒産動向分析、企業再生研究。