Question
DCF法の計算においては、将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引く過程における
加重平均資本コスト(WACC)の推計が重要であり、WACCの水準感が事業価値を大きく左右する。WACCの計算を進めるにあたり、業種による違いや、同業種であっても企業サイズや事業展開国の違いといった対象企業に関する個別的な要素は、DCF法の計算に使用されるWACC、とりわけ
株主資本コスト(CoE)へどのように反映させて考えるべきなのだろうか。
1 キャッシュ・フローの性質に応じて割引率を考えることの重要性 インカム・アプローチのDCF法(Discounted Cash Flow Method)は主に以下の3つの要素から成り立っている。第4回では、このうち②
割引率に焦点を当てて、割引率の考え方について解説を行う。
① 事業計画等を基礎としたフリー・キャッシュ・フロー
② 割引率
③ 継続価値
本連載第1回にて、DCF法において採用される割引率としてWACC(Weighted Average Cost of Capital: 加重平均資本コスト)が一般的に用いられている理由を解説しているが、第4回では、割引率の考え方を改めて整理し、WACCの構成要素であるCoE(Cost of Equity: 株主資本コスト)を中心に、CoEを計算するための各パラメータをどのように設定していくのかという点を深掘りしていきたい。
さて、第4回のタイトルにも記載のとおり、割引率を考えるにあたっては、「割引率は割引率単独に閉じて考えるものではなく、キャッシュ・フローと表裏一体で考えるべきもの」という発想がとても重要である。当該ポイントを押さえつつ、後述する割引率の構成要素である各パラメータがそれぞれ何を示しているのかを理解すれば、後は将来事業計画(=将来キャッシュ・フロー)の持つ性質を反映させるように、割引率の各パラメータを設定することで、将来キャッシュ・フローと整合する割引率の計算を実施することができる。
割引率の計算の第一歩として、まずは、割引率の構成要素であるパラメータがそれぞれ何を示しているのかを理解する必要がある。ここでは、WACCの構成要素であるCoEがどのようなパラメータで構成されているのかについて理解を深めていきたい。
(1) CoEを構成するパラメータ 本連載第3回でも解説したように、
■筆者プロフィール
佐田 和博(さた・かずひろ)
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 シニアマネジャー、米国ワシントン州公認会計士、不動産鑑定士。
2011年4月三菱UFJ信託銀行入社。不動産鑑定評価業務(工場・鉄道財団評価含む)、不動産マーケット分析業務および企業不動産(CRE)戦略立案業務に従事。2016年9月デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。M&A取引における株式価値評価業務のほか、取得原価配分(PPA)に基づく無形資産評価、棚卸資産および機械設備評価業務ならびに減損テスト関連評価業務といった会計目的評価業務に従事、現在に至る。
■監修者プロフィール
中道 健太郎(なかみち・けんたろう)
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 パートナー
トロント、ニューヨークでの監査経験を経て、1997年に来日。金融機関・金融商品・不良債権の評価、海外資源・インフラ案件の評価、機械設備の評価、訴訟・競争法関連の評価・証言を含め、幅広い業種・状況におけるバリュエーションサービスに従事、現在に至る。