[【企業価値評価】財務分析入門(一橋大学大学院 円谷昭一准教授) ]
(2017/01/11)
本連載では、「財務分析入門」と題して7回にわたって連載します。前回までは損益計算書と貸借対照表の項目を使った分析を説明してきました。第6回はもう1つの重要な計算書であるキャッシュフロー計算書の分析方法を説明します。また、多角化企業の事業別の分析方法についても紹介します。
キャッシュフロー計算書
キャッシュ(cash)とはそもそも何でしょうか。「現金及び現金同等物」と訳されます。文字通り、「現金」と「現金同等物」の合計額です。スズキの有価証券報告書(2016年3月期)には以下のような計算表が掲載されています。
貸借対照表の流動資産に計上されている「現金及び預金」「有価証券」を元に「現金及び現金同等物(キャッシュ残高)」が計算されていますが、いくつかの調整が加わるために、貸借対照表に計上されている「現金及び預金」とキャッシュ残高の金額は必ずしも一致しません。このキャッシュの一定期間での変動(flow)がキャッシュフローであり、その変動の理由と金額を説明しているのがキャッシュフロー計算書です。
キャッシュフロー計算書は「西山先生のM&A基礎講座[決算書の見方]」で詳しく説明されており、あらためて述べる必要はありませんが、キャッシュフロー計算書ではキャッシュフローを3つに分類して記載しています。「営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)」「投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)」「財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)」です。営業CFは、営業活動が拡大して企業の現金収入が増えれば増加します。一方で、原材料高騰などで現金支出が増えれば減少します。つまり、営業活動を通じて企業に入ってきた、または、出て行ったキャッシュが合計され、営業CFの金額として記載されます。投資CFは、投資活動のためにキャッシュを支出したら減少し、投資回収(工場売却など)によって手元にキャッシュが入ってきた場合には増加します。この合計額が投資CFの金額として記載されます。最後の財務CFは、財務活動によるキャッシュフローです。銀行から資金を借り入れた場合には手元にあるキャッシュが増加します。一方で、借金を返済した場合には手元のキャッシュは減少します。また、株主に配当を実施した場合にはキャッシュは減少します。このように借入れや配当といった財務活動によって増減したキャッシュの合計額が財務CFの金額となります。スズキの2016年3月期のキャッシュフロー計算書(連結)の抜粋が以下です(抜粋のため、合計に不一致が生じています)。
スズキは2016年3月期に営業活動を通じて2,941億円のキャッシュを手に入れています。投資活動では有形固定資産の取得に1,626億円を投じており、その他を含めた合計で2,424億円の支出となっています。財務活動では今期に自己株式の取得を4,605億円ほど実施したこともあり、5,204億円の支出となっています。この結果、今期の現金及び現金同等物の増減はマイナス4,822億円となり、期首残高9,323億円と合計して、期末残高は4,501億円となっています。
キャッシュフロー計算書の分析視点
では、どこに着目してキャッシュフロー計算書を分析していけばよいでしょうか。ここでは…
■筆者プロフィール■
円谷 昭一(つむらや・しょういち)
一橋大学大学院 商学研究科 准教授。2001年一橋大学商学部卒業。06年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了、博士(商学)取得。埼玉大学経済学部准教授を経て、11年より現 職。経済産業省「持続的成長への競争力とインセンティブ-企業と投資家の望ましい関係構築を考える-」委員、「企業会計とディスクロージャーの合理化に向 けた調査研究」委員などを歴任。日本IR協議会客員研究員。主な論文に「機関投資家ファンダメンタルズと株主総会投票行動の関連性(月刊資本市場2016 年9月)」、「IFRSの任意適用が経営者業績予想の精度に与える影響(會計2016年6月)」など。
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