金融庁において損害保険業等に対する規制が検討される中、「企業内保険代理店」の閉鎖や売却を検討する動きが加速している。企業内保険代理店の売却においては、買い手との間に長期の取引継続期間を定めることが一般的である。これは、売り手である企業にとっては現在の保険調達のレビューを行う、ひいてはリスクコストの削減やリスクマネジメント力の強化に取り組む機会を逃すことにつながりかねない。売り手である企業は企業内保険代理店の売却における負の側面をしっかりと理解し、自社のリスクマネジメント高度化に資する選択を行うべきである。
I. 企業内保険代理店に関わる規制変更の方向性
企業内保険代理店の歴史
日本では、多くの大手企業がグループ内に持つ企業内保険代理店を通して損害保険を調達している。これは日本固有の商慣習で、1996年保険自由化以前の保険料が各社均一の時代に普及した仕組みである。
1996年の保険自由化以降、保険料は保険会社との交渉によって下げられるようになったが、企業内保険代理店は取り扱い保険料が下がると自社の収入が減ることもあり、親会社の保険コストの削減に本腰が入らない。一方で親会社側でも、企業内保険代理店の保有目的を保険料のグループ内留保(注:保険料の一定割合である代理店手数料を自社グループ企業で受け取ることでの実質的な保険料割引効果)と従業員の受け皿と考えている企業が少なくない(図表1参照)。
日本企業を取り巻くリスクは複雑化、多様化しており、これらに対処するためリスクマネジメント力の強化が求められている中で、企業内保険代理店は保険調達を含めたリスクマネジメントアドバイスの知見を有していない可能性がある。
■筆者プロフィール■

上垣内 真(かみこうち・まこと)
1997年、興亜火災海上保険(現:損害保険ジャパン)入社。2002年、マーシュ ジャパン入社。オランダオフィスでの勤務を経て、大手日系企業のグローバルプログラム導入及び運営、新規ビジネス開拓に従事。2020年より、マーシュ ジャパン 大阪支社長として、在阪および関西以西の日本企業に対しリスクマネジメントに関する助言、および保険プログラム改善提案、導入・運営業務に携わる。2021年より中堅中小企業セグメントリーダー兼務。2022年10月よりInorganic Growthとして保険代理店M&Aを担当。成蹊大学経済学部卒業。