左から石田 雅彦氏、 Danish Hamid氏 Ⅰ.CFIUSとFIRRMAについて
―― 日本企業を含む外国投資家が米国企業への投資案件や米国企業の買収案件を進めるにあたって、
対米外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the United States、以下CFIUS<シフィウス>) による取引の審査・調査及びCFIUSの勧告を受けた大統領による取引の中止・変更命令に関する論点が近年重要性を増しています。さらに、2018年8月13日には、2018年外国投資リスク審査現代化法(Foreign Investment Risk Review Modernization Act of 2018、以下FIRRMA<ファーマ>)が2019年度の国防権限法(National Defense Authorization Act)の一部として成立しました。
DLAパイパーではCFIUSとFIRRMAについてこのほど詳細なレポートをまとめられたということで、今回はそのレポートに沿ってCFIUSとFIRRMAについて解説していただきたいと思います。まず、CFIUSとFIRRMAについて概観していただけますか。
石田 「CFIUSとは、米国の国家安全保障への悪影響を生じるかという観点から、外国投資家からの一定の要件を満たす投資・買収を審査する権限を持つ米国政府の複数の省庁から構成される委員会です。財務長官が議長を務めているのをはじめ、司法長官、国土安全保障長官、商務長官、国防長官、国務長官、エネルギー長官、通商代表及び科学技術政策局長のほか、必要に応じて参加することのできるオブザーバーや議決権を持たないメンバーを併せ、全16の政府機関の代表者から構成されています。
CFIUSは、外国投資家が米国企業の支配権を握り、それにより米国の国家安全保障に対する悪影響が生じるおそれがあると判断した場合には、大統領に対して対象取引の中止、禁止、または取消しを命じることを勧告し、大統領はこの勧告を受けて、当事者に対し命令を発出することができます。
実際に大統領が権限を行使し外国からの米国企業への投資をストップさせた例もいくつかあり、また、大統領命令には至らずとも、外国投資家がCFIUS及び大統領により国家安全保障上の影響を問題視される可能性を考慮した結果、自ら取引の実行を諦めたり、取引内容を変更したりするケースも多く存在します。
CFIUSは75年に組織されたものですが、近年、最先端技術が発達し、外国投資家がそのような技術を支配することに伴う安全保障上のリスクに対する懸念の高まりを受けて、その役割はより一層重要になっています。
特に、注目すべき新たな展開としては、18年8月13日に、『FIRRMA』が19年度の国防権限法の一部として成立したことが挙げられます。FIRRMAは、CFIUSの権限強化を図るもので、中国企業をはじめとする外国企業による米国の基幹技術その他の国家機密にかかわる分野への投資の増加、及びそれにより生じうる経済及び国家安全保障への影響についての議論が反映されたものですが、その影響は中国企業にとどまりません。
FIRRMAは、18年8月13日以降に審査又は調査が開始される一定の『対象取引(covered transaction)』に適用されます。ただし、FIRRMAで新たに定められた規定の全てが直ちに適用されるものではなく、多くの規定においては、詳細を定める規則(regulations)が米国財務省及びCFIUSにより新たに制定されることが必要とされており、そのような規定の効力は、18年8月13日から18カ月後、または当該規則が公表されてから30日後のうちいずれか早く到来する日まで生じないものとされています。
他方、CFIUSは、未発効の規定を試験的に運用する“パイロット・プログラム"を実施することができるとされており、18年10月10日には、重要技術に関する規定等についてのパイロット・プログラムの実施に関する暫定規則が公表され、18年11月10日から実施が始まっています」
CFIUSに関する問題を検討する際のポイント ―― CFIUSに関する問題を検討する際のポイントはどのような点でしょうか。
ハミド 「米国における取引案件を進めるにあたってCFIUSに関する問題を検討する際には、以下のような点を考慮する必要があり、ときには実務的に難しい判断を求められるケースもあります。大きく分けて6つのポイントがあります。
第1にCFIUSへの取引の通知は原則として任意であり、明確な判断基準が存在しないため、当事者が自らリスクを評価し、通知をするべきか否かを決定しなければならないという点です。
第2に、CFIUSは国家安全保障上の懸念が一見して明らかでない場合であっても、取引を審査する広範な権限を有していること。
第3に、CFIUSは当事者が知らない非公開情報に対してもアクセスすることができることです。当事者が届出は不要であると判断したとしても、CFIUSが主体的に案件の調査を進める場合があり、そのような場合にはCFIUSに主導権を握られてしまい、当事者がCFIUSの示す懸念に反論する有力な材料を持たず、不利な地位に立たされることがあります。
第4に、CFIUSは取引の機密性を保護するために、過去の決定を公表していません。また、仮に過去の決定についての情報が利用可能である場合でも、CFIUSの決定は、裁判所の判決とは異なって、事実に固有のものであるという性質が極めて強く、先例として依拠することが難しいことが多い点です。
第5は、CFIUSの審査・調査には法律や規則に定められた期間よりも長い時間がかかる可能性があるという点です。CFIUSは、当事者から追加情報の提出を受けることが必要ある等の一定の場合には、審査・調査期間の進行を停止したり、リセットしたりすることができます。そのため、取引実行のスケジュールに対する影響の程度を見積もることが難しく、取引完了を遅延させる要因となる可能性があります。
第6に、FIRRMAによってCFIUSの『その他の投資』に対する権限の範囲が拡大されたことが挙げられます。ただし、CFIUSが新たな規則を制定し施行するまでその権限の範囲は明らかではなく、新規則の施行前に『その他の投資』への該当性を検討するには不透明な要素が多くあって、難しい判断が求められることになる可能性があります」
石田 「ハミドの言っている、CFIUSが過去の決定を公表していない点が、実務上悩ましいポイントです。実際に報道で公表されているものや統計として出ている案件以外にも、実際にはCFIUSが問題となり、案件がストップしたものが相当数あるということは付言した方がよいかと思います」
CFIUSの権限が及ぶ取引とは ―― CFIUSの権限が及ぶ取引とはどのようなものですか。
ハミド 「現行の規則下において、CFIUSが審査する権限を持つ『対象取引』は、外国投資家による米国事業への支配をもたらす可能性のある外国投資家との取引で、『米国事業』とは…