[M&A戦略と法務]
2013年12月号 230号
(2013/11/15)
第1 はじめに
法制審議会第167会議が、平成24年9月7日に、法務大臣に対し「会社法制の見直しに関する要綱及びその付帯決議」(以下「要綱」という。)を答申し、既に1年以上が経過した。当初、答申後速やかに国会に提出される予定であった会社法改正法案は、政権交代や参議院選挙等の影響を受け、いまだ国会に提出されていないが、政情も落ち着いたことから、法務省は、要綱に従った会社法改正案を今秋の臨時国会に提出し、臨時国会(遅くとも次期通常国会)には改正会社法が成立するものと予想されている。本稿では、改正会社法成立を見据えて、要綱に基づいて会社法改正後のM&A実務における留意点を解説する。
第2 株式の取得
企業買収の典型的な手法である株式の取得に関連して次の改正が行われる予定である。
(1)親会社からの株式取得
現行法では、親会社が子会社株式を売却する行為は、規模の大小を問わず、株主総会の承認は不要であるが、改正会社法では、子会社株式の簿価が親会社の総資産の5分の1超の場合、親会社の株主総会の特別決議による承認が必要となる予定である(第2部第1の3)。この承認決議が欠けた場合、子会社株式の売買契約は無効になると解釈される可能性が高いことから、子会社株式を取得しようとする者は、売主である親会社の直近の貸借対照表と子会社の簿価を確認し、必要に応じて、株主総会議事録の提出を求めなければならなくなる。また、この場合、反対株主や無議決権株主には、株式買取請求権の行使が認められるから、子会社の買取資金の有無、株式買取代金が分配可能額を超える可能性がないか等を検討する必要がある。
(2)第三者割当てによる支配権の取得
買収者が、対象会社から第三者割当て増資によって発行済み株式総数の2分の1超の株式を取得することによって支配権を取得するスキームを用いることがある(第三者割当て増資による支配権の取得)。現行法では、公開会社(上場会社に限らず、株式の譲渡制限が付されてない株式を発行している会社)の第三者割当て増資は、特に有利な発行価額によるものでない限り、取締役会の決議で行うことができるが、改正会社法では、第三者割当てによる支配権の取得を行おうとする場合には、払込期日等の2週間前までに引受人の氏名等を株主に通知し、総議決権の10%以上の議決権を有する株主が当該引受けに反対した場合には、株主総会の普通決議による承認を得ない限り、当該引受人は引き受けることはできないこととなる(第1部第3の1(1))。現在も、買収者が第三者割当てによる支配権の取得を確実に行うときは、支配株主の了解を得ているのが通常であるが、10%以上の株主が反対するか否かによって、スケジュールに最低でも株主総会の招集手続に要する期間(通常2週間)のずれが生ずるため、スケジュール策定にあたって留意を要する。
(3)金融商品取引法上の規制に違反した者による議決権行使の差止め請求
買収者が上場会社等の株式を取得する場合において、公開買付け等が義務づけられる場合がある(金融商品取引法第27条の2第1項等)。現行法では、買収者が公開買付け義務に違反して株式を取得したときに、金融商品取引法上の課徴金や刑事罰等の制裁は定められているものの、会社法上の株主の権利には何の影響も与えない。そこで、改正会社法は、既存株主は、公開買付け義務等に違反した株主に対して、議決権行使の差止めを請求することができる制度を設ける予定である(第3部第1)。要綱では、当該請求権は、訴訟や仮処分の手続によらなくても、公開買付け義務等に違反した株主がその請求を受けたときに、公開買付け義務等に違反して取得した株式について議決権を行使することができなくなるとされている。筆者の個人的な見解では、当該請求権の創設は法制上ハードルが高いと思うが、仮に当該請求権が認められることになれば、敵対的買収において公開買付け義務違反と疑われるような動き(複数の会社やファンドが同時期に株式を買い集める行為等)をした場合等には、議決権行使差止めを巡る紛争が生ずることが予想される。
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