[業界動向「M&Aでみる日本の産業新地図」]

2023年5月号 343号

(2023/04/11)

第217回 デジタル銀行業界 バランスシート拡大、提携と機能拡充がもたらす資本調達とM&Aニーズ

炭谷 健志(日本格付研究所<JCR> 審議役)
  • A,B,EXコース
わが国のデジタル銀行

 デジタル銀行は、「スマホやPCなどのデジタル端末とインターネット通信を介する金融取引にほぼ特化した銀行」と言え、この定義に当てはまる銀行は現在、日本に9行が存在する(図表1)。既存の企業・銀行が銀行業への進出や新サービス・新チャネルの開拓を目的として設立したケースが多い。各行、いずれにおいても、1~2社(行)の少数の大企業や規模の大きな金融機関が主要株主となっている。しかし最近では、住信SBIネット銀行が2023年3月に楽天銀行も同年4月に東証に株式上場するなど、株主構成のあり方に変化が出てきつつある。

【図表1】デジタル銀行の主要な株主と商号の変更
2000.10 開業2006.9 主要株主交代2018.2 連結子会社化2019.10 主要株主交代(グループ内)2021.4 商号変更
ジャパンネット銀行ジャパンネット銀行ジャパンネット銀行ジャパンネット銀行PayPay銀行
三井住友銀行 三井住友銀行
ヤフー
ヤフー(連結)
三井住友銀行
Zフィナンシャル
三井住友銀行
Zフィナンシャル
三井住友銀行
   
2001.6 開業2004.4 主要株主交代(グループ内)2008.3 完全子会社化
ソニー銀行ソニー銀行ソニー銀行
ソニーSFH(ソニーフィナンシャルホールディングス)SFH(完全子会社化)
(2021.10)SFHはソニーフィナンシャルグループ(SFG)に商号変更
     
2001.7 開業2007.4 主要株主交代2009.2 主要株主交代
2010.5 商号変更
2010.10 完全子会社化
2019.4 主要株主交代(グループ内)2022.4 主要株主交代(グループ内)
2023.4株式上場
イーバンク銀行イーバンク銀行楽天銀行楽天銀行楽天銀行
松尾泰一金融サービス育成投資事業組合
(組合員DBJ事業投資)
楽天楽天カード楽天グループ
  
2007.9 開業2023.3 株式上場
住信SBIネット銀行住信SBIネット銀行
三井住友信託銀行
SBIホールディングス
【株式上場】
三井住友信託銀行
SBIホールディングス
   
2008.7 開業2019.4 主要株主交代(グループ内)・連結子会社化2020.2 商号変更
じぶん銀行じぶん銀行auじぶん銀行
KDDI
三菱東京UFJ銀行
auフィナンシャルホールディングス(連結)
三菱UFJ銀行
auフィナンシャルホールディングス
三菱UFJ銀行
 
2011.4 開業
大和ネクスト銀行
大和証券グループ本社
  
2018.7 開業(凡例)
GMOあおぞらネット銀行年月 変更点
あおぞら銀行
GMOインターネットグループ
GMOフィナンシャルホールディングス
デジタル銀行
主要株主
主要株主
 
2021.5 開業
みんなの銀行
ふくおかフィナンシャルグループ
 
2022.1 開業
UI銀行
東京きらぼしフィナンシャルグループ
 
(資料)各行公表資料より筆者作成。


ハイスピードの業容拡大が続く

 デジタル技術やネットを基盤とするコミュニケーションや商取引が社会に浸透するにつれ、デジタル銀行の業容と存在感は着実にかつ急速に拡大している。

 デジタル銀行の場合、法人ユーザーは少なく、ユーザーの大宗が個人である。その個人ユーザーにおいても、給与受取や退職金・年金受取の受皿となる家計のメイン口座というよりは、ネットショッピング等のために使う便利な補助口座として位置づけていることが多い。このこともあり、預金残高でみたデジタル銀行9行のシェアは全国銀行合計928兆円に対し、2.8%相当の22兆円とまだ小さい。

 しかし、成長スピードは速い(図表2)。2021年度末の預金残高増加率は前年度末比、全国銀行平均が3%であるのに対し、デジタル銀行では17%。個別行の預金残高をみても、楽天銀行の7.7兆円や住信SBIネット銀行の7.1兆円は、すでに地銀上位行と遜色が無いものとなっている。

【図表2】デジタル銀行の業容推移
【図表1】デジタル銀行の主要な株主と商号の変更
(出所)各行公表資料、(一社)全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析(付属表・参考表)」(ウェブサイト)より筆者作成。

 口座数が、その成長をより顕著に示している。


■筆者プロフィール■

炭谷氏炭谷 健志(すみたに・けんじ)
日本格付研究所 審議役
1989年一橋大学法学部卒業。政府系金融機関の審査、調査、財務部門のほか、調査機関のエコノミスト業務等を経て、2002年に株式会社日本格付研究所入社。金融セクターアナリストとして大手銀行、地方銀行、ネット・デジタル銀行、証券・短資・FX等各種ディーラー、政府系金融機関などの格付を主任として担当。また、格付企画部長、格付プロセス統括部長、ストラクチャード・ファイナンス部長などを務め、格付基準(メソドロジー)整備、プロセス管理、内部統制、国内外当局対応など、信用格付業の態勢整備にも幅広く携わってきた。現在はチーフ・コンプライアンス・オフィサー兼審議役。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。

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