話題を呼んだセゾン投信の中野晴啓前CEOの解任劇。実は、2014年に日本郵便がセゾン投信に出資した際に、クレディセゾンと日本郵便との間で「クレディセゾンが提案する首脳人事議案に日本郵便は反対しない」という趣旨の株主間契約が結ばれていた。「上場子会社」が減り「上場関連会社」が増えるなか、上場会社の親子間契約が不透明な現状が浮き彫りになっている点を
前回寄稿では指摘した。
今回のセゾン投信の中野会長の解任劇の背景には、出資者であった日本郵便とクレディセゾンの不透明な株主間契約が背景にある。
つみたてNISAで残高3倍に セゾン投信の創業者で積み立て投資を顧客に訴え続けてきた中野晴啓会長兼最高経営責任者(CEO)が、親会社との経営方針をめぐる対立で6月に事実上、解任されたことは記憶に新しい。親会社都合による運用会社のトップ人事を金融庁が問題視し始めた矢先の出来事だった。実は、中野氏が涙をのんだのは、出資比率60%のクレディセゾンと同40%の日本郵便とが締結していた
株主間契約の存在だ。中野氏は孤軍奮闘を迫られたのだ。
中野氏の退任を6月28日の株主総会に付議することは、5月31日の取締役会で決定された。セゾン投信は取締役の構成メンバーも人数も公表していないが、関係者によると全部で6人いて、内訳はクレディセゾン側が中野会長(5月31日時点の肩書)と園部鷹博社長を含む3人、日本郵便側が2人、社外取締役が1人となっている。
セゾン投信は「セゾン・グローバルバランスファンド」「セゾン資産形成の達人ファンド」「セゾン共創日本ファンド」の3本の投信を運用していて、8月末の純資産総額は6842億円となっている。証券会社や銀行経由の販売ではなく、投資家への直接販売をしているのが特徴で、中野氏が投資家向けセミナーなどでひたすら積み立て投資を訴えてきたことから、顧客の多くは積み立て型の少額投資非課税制度「つみたてNISA」などを活用して毎月、定期的に積み立てているようだ。
実際、つみたてNISAの制度が導入される前の2017年末のセゾン投信の純資産総額は2127億円にとどまっていた。「つみたて王子」とも呼ばれる中野氏の呼び掛けに賛同してセゾン投信の商品で資産形成をしようと考えた顧客も多く、図表1のグラフが示すように、2017年末から2023年8月末までに純資産総額は3倍強に膨らんだ。
■ 筆者履歴
前田 昌孝(まえだ・まさたか)
1957年生まれ。79年東京大学教養学部教養学科卒、日本経済新聞社入社。産業部、神戸支社を経て84年に証券部に配属。97年から証券市場を担当する編集委員。この間、米国ワシントン支局記者(91~94年)、日本経済研究センター主任研究員(2010~13年)なども務めた。日経編集委員時代には日経電子版のコラム「マーケット反射鏡」を毎週執筆したほか、日経ヴェリタスにも定期コラムを掲載。
22年1月退職後、合同会社マーケットエッセンシャルを設立し、週刊のニュースレター「今週のマーケットエッセンシャル」や月刊の電子書籍「月刊マーケットエッセンシャル」を発行している。ほかに、『企業会計』(中央経済社)や『月刊資本市場』(資本市場研究会)に定期寄稿。