1987年に国鉄が分割・民営化し発足したJR九州(九州旅客鉄道)は、古くから非鉄道事業のM&Aに積極的な企業として知られている。管内にはいわゆる「ドル箱路線」がなく、発足当初から鉄道事業の基盤は脆弱であった。高速バスやマイカーとの競争にさらされ、自然災害が多い土地柄の中、鉄道事業を強靭化させつつ非鉄道事業を伸ばすことが半ば必然の戦略となる「課題先進企業」であったことが、M&Aに積極的な企業を形づくった理由だと言える。また博多港と韓国・釜山港を結ぶ高速船ビートル(1990年運航開始)事業などの果敢な新規投資に取り組む企業カルチャーも有する。
JR九州は現在、運輸サービス事業のほか、不動産事業(駅ビル、マンション、物流施設等)、ホテル事業、流通・外食事業、建設事業、ビジネスサービス事業等を手掛けるコングロマリット企業である。M&Aに取り組み結果を出すという企業風土を形づくった背景や、現在の取り組みのポイントはどこにあるのだろうか。
JR九州グループの中期経営計画とM&A戦略
JR九州は「2030年長期ビジョン」および「中期経営計画2022-2024」を策定し、これらの計画に基づいて事業戦略を展開している。後者における主なポイントは3つある。
第1が、「事業構造改革の完遂」だ。この戦略は、新型コロナウイルス感染症の影響からの早期立て直しを目指しており、鉄道事業やホテル事業などを中心に、ビジネスプロセスの再構築(BPR)を完遂することに重点を置いている。具体的には、業務効率の向上、コスト削減等の構造改革により、事業基盤の強化と持続可能な成長を目指している。
第2が、