[企業変革手段としてのM&Aの新潮流 Season4]

2025年5月号 367号

(2025/04/09)

第2回 AIデータセンターの投資におけるエコシステム形成

富野 賢治(デロイト トーマツ コンサルティング パートナー)
塩見 謙介(同 シニアマネジャー)
  • A,B,C,EXコース
1. はじめに

 近年、生成AIの飛躍的な発展や産業全体でのAI活用拡大に伴い、AI向けデータセンターへの需要が急増している。AIモデルの学習・推論には莫大な計算資源が必要であり、それを支えるAIデータセンターは現代のデジタル経済の基盤として極めて重要である。実際、北米のデータセンター市場はかつてない規模で拡大を続けており、その原動力の1つがAI需要の爆発的増加である。AIデータセンターを支える業界構造にも大きく影響を与え、北米を起点としてグローバルに波及し、領域・グローバル横断での変革が見られている。本稿では、AIデータセンターに焦点を当て、業界全体の競争環境や主要なプレイヤーの動向・起点となる北米地域におけるAIデータセンターのエコシステム形成のトレンドについて詳述する。さらに、これらの変化を受けたグローバルへの業界構造への影響と関連プレイヤーのM&A・アライアンス戦略に対する考察を行う。

2. AIデータセンターの動向

AIデータセンターへの投資動向

 (図表1)が示す通り、データセンターの市場規模・パブリッククラウドサービス市場規模は右肩上がりで、年率10%を超える成長率である。

 中でも、AIデータセンターへの投資としては、2025年にはAmazon(AWS)が約1000億ドル、Microsoft(Azure)が約800億ドル、Google(GCP)が約750億ドル、Metaが約650億ドルもの資本支出を計画している。これらはいずれも過去最大規模であり、その大部分がAI対応のデータセンター拡充に充てられる見込みである。また、OpenAIなどAI専業企業も独自の大規模データセンター計画「Stargate」に乗り出し、1000億ドル規模の投資構想を打ち出すなど、インフラ競争が激化している。投資マネーの流入は設備新設だけでなくM&Aにも及び、2024年のデータセンター業界におけるM&A総額は730億ドルを超えて過去最高を更新した。例えば米投資会社ブラックストーンはAPAC地域のデータセンター事業者AirTrunkを約160億ドルで買収し、エクイニクス社はシンガポール政府投資公社(GIC)等と150億ドル超のジョイントベンチャーを組成してハイパースケール向け施設「xScale」を拡大する計画である。このように大型案件が相次いでおり、近年のデータセンターセクターは投資家にとって最も有望な投資先の1つとなっている。



■筆者プロフィール■

富野氏

富野 賢治(とみの・けんじ)
デロイト トーマツ コンサルティング パートナー
16年以上のコンサルティング経験を有する。通信・IT業界、製薬、消費財等において、新規事業戦略・クロスボーダーPMIや組織設計を数多く支援。IESE ビジネススクールでMBA取得。
昨今はグローバルでのデータセンター事業戦略策定・実行支援に多く携わる。

塩見氏

塩見 謙介(しおみ・けんすけ)
デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー
大手製造業 経営企画を経て現職。通信/IT・製造業・エネルギー・商社における事業戦略、グローバル戦略、M&A戦略、組織・人事戦略の立案から変革・定着まで支援。昨今は生成AIやデータセンター関連の事業戦略支援を実施し、領域横断のエコシステム形成を手掛けている。

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、Cコース会員、EXコース会員限定です

*Cコース会員の方は、最新号から過去3号分の記事をご覧いただけます

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

アクセスランキング