[Webマール]

(2024/04/18)

人権侵害リスクに留意したM&Aの検討

-近時の社会的要請の高まりとともに-

石田 渉(森・濱田松本法律事務所 パートナー 弁護士)
塚田 智宏(同 弁護士(元 経済産業省 大臣官房 ビジネス・人権政策調整室))
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1 はじめに

 近年、「人権デュー・ディリジェンス」(以下、人権DD)という言葉を頻繁に耳にするようになった。2022年9月に日本政府が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(以下、日本政府ガイドライン)を策定して以降、直近のイスラエル・ガザ地区における紛争等の世界情勢の影響も相まって、企業による人権尊重の取組みへの社会的要請がますます高まっている。特に欧州において先行して人権DDに関する法制化が進んできているが、日本においても、経済産業省や農林水産省等による日本企業の取組みを後押しする資料の公表等を背景として、多くの日本企業が取組みを更に本格化させている。

 日本では例えば外国人技能実習生に係る強制労働が指摘されるなど(注1)、人権侵害リスクは国内外を問わず様々な場面で生じ得るが、一般論としては、人権保護の法制度等がより脆弱な新興国においてより深刻な人権侵害が発生する可能性が高い(注2)。例えば、日本企業が新興国企業を買収した後に買収先やそのサプライチェーンにおいて強制労働が確認されることがあり得るが、日本政府ガイドラインの下では、こうした場面において、買収を行った日本企業自身にも強制労働問題の解決に向けた取組みが求められる(注3)。

 他方、M&A局面においては、人権侵害リスクの検証プロセスや当該リスクに対してM&Aプロセス(DD/契約交渉/PMI等)でどのように対応すべきかという点について、通常の法務DDとは異なる視点・ポイント・留意点が存在する。本稿では、M&Aの場面に特化して、日本政府ガイドライン等を踏まえ、いかに人権侵害リスクに留意・対応していくべきかを取り上げる。

2 念頭に置くべき人権DDとM&Aにおける法務DDの違い

 人権DDとは、


■筆者プロフィール■

石田 渉(いしだ・わたる)

石田 渉(いしだ・わたる)
森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士
2008年東京大学法学部卒業、2010年東京大学法科大学院修了、2011年弁護士登録、2017年ニューヨーク大学ロースクール修了、2017年McDermott Will & Emery法律事務所(ワシントンD.C.)執務、2018年ニューヨーク州弁護士登録、2020年NEXs Tokyoメンター、2022年中小企業庁 認定経営革新等支援機関認定。
クロスボーダー案件を含め、国内外のM&A・危機管理・訴訟紛争・人権対応を含むコンプライアンス対応案件において多くの経験・知見を有する。また、コンサルティングとして事業戦略・M&A戦略の立案・遂行を支援した知見も踏まえ、中小企業から上場企業・大企業まで幅広い企業のM&A・危機局面を支援している。
受賞:The Best Lawyers in Japan™ (2024 edition)ほか多数。
著書:「私的整理における既存株主の取扱い―直近実例を踏まえて」(共著)NBL1241号(2024)、「成立事例にみる中小企業版事業再生ガイドラインの実践的活用」(共著)事業再生と債権管理36巻4号(2023)ほか多数。

塚田 智宏(つかだ・ちひろ)

塚田 智宏(つかだ・ちひろ)
森・濱田松本法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士
2013年慶應義塾大学法学部卒業、2014年弁護士登録、2020年ペンシルベニア大学ロースクール修了(LL.M., President)、2021年ニューヨーク州弁護士登録、同年米国公認会計士登録(ワシントン州)、2022年経済産業省 大臣官房 ビジネス・人権政策調整室(〜2023年)。
コンプライアンス・危機管理分野において多くの経験を有しており、「ビジネスと人権」に関しては、日本政府が初めて策定したガイドラインである「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(2022年9月)、及び、同ガイドラインを実践するための経済産業省の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」(2023年4月)の策定に立案担当者として関与した経験を踏まえ、人権方針の策定や人権デュー・ディリジェンスといった平時の対応から、人権侵害事案が発生してしまった場面における有事の対応まで、「ビジネスと人権」全般について支援している。
著書:『「ビジネスと人権」基本から実践まで』(商事法務、2024)、「「ビジネスと人権」に関する近時の動向~経済産業省資料の解説とともに~」会計・監査ジャーナル36巻1号(2023)ほか多数。

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