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[【企業変革】価値創造経営の原則と実践(マッキンゼー・アンド・カンパニー)]

(2021/05/13)

【第5回】事業売却による価値創造

野崎 大輔(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー)
呉 文翔(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 アソシエイト・パートナー)
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 多くの大企業は複数の事業を営んでいる。金融を除く東証一部上場企業は平均で3.1の事業セグメントを有している。また、有価証券報告書上は同一のセグメントであっても実態としては事業特性が異なる事業であることも多いため、実際にはもっと多くの事業を大企業は保有していると考えられる [図1]。

[図1]
 

 複数の事業を保有している場合、自社はいずれの事業の価値をも最大化できるケイパビリティを有しているベストオーナーであることが必要である。そして一般的にベストオーナーであるための条件は、事業間でのシナジーが発揮できること、何らかの差別化したスキルがあること、市場環境に対する洞察・先見性を有していること、卓越したガバナンスを効かせること、特別な経営資源へのアクセスがあること、などが挙げられる。逆をいえば、自社がベストオーナーでなければ、その事業は他のベストオーナーに売却するべきである。既に述べた通り、日本企業は総体としては多数の価値破壊事業を有しており、これらは戦略およびオペレーションの改善を通じて自力で価値創造できるまでに引き上げることも無論検討するべきではあるが、一方で事業売却もまた現実的な選択肢の一つである。特に何年にもわたって価値破壊を行っている事業であれば株主に対してもなぜそのような事業を有しているのか、なぜそれが中長期的な企業価値を最大化する上で合理的であるのかを説明する必要がある。

 本稿では事業売却と価値創造との関係について述べたい。

【事業売却は決してネガティブなものではない】

 事業を売却するというのは、まだ日本では否定的な意味合いがあると認識されている印象がある。当初の想定と異なり業績が思うように伸びず、何年にもわたって立て直しに取り組んだものの、結果に結びつかず、苦渋の決断で売却をする、といったようなイメージである。

 しかし、本来は事業売却を否定的に捉える必要はない。確かに、当初の計画を達成できずに、言い換えると自分たちがベストオーナーという想定が崩れた結果、事業売却に至る場合もあるが、他にも売却する理由はある。例えば成長市場において他社よりも速く売上を伸ばすことに長けている会社は、もしその事業ポートフォリオの中に市場が成熟期を迎え売上増加よりもコスト管理が重要となる事業ステージを迎えた事業があれば、コスト管理に優れた別のオーナーに売却するべきである。このような場合、売却者は何も想定外のことは起きておらず価値創造の観点から合理的に行動したと言えるだろう。感情的には、事業の売却に伴い、それを担っている従業員も切り離すことは受け入れるのが難しいかもしれない。しかし売却された事業の従業員からしても最適ではないオーナーの元に事業を運営し、結果的に売上や利益が低下し投資ができなくなる悪循環に陥るよりは、ベストオーナーの元で、さらに事業の価値を高める活動に励んだ方が、はるかに心地いいのではないだろうか。

【ベストオーナーではない事業は業績が低迷する前に売却する】 
....

マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社

■筆者略歴

野崎 大輔(のざき・だいすけ)
マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー

日本における戦略・コーポレートファイナンス研究グループのリーダー。
M&A、合弁事業立ち上げやその他のパートナーシップ締結、事業統合マネジメント、戦略立案、次世代リーダー育成など、幅広い分野に従事。日系企業のM&Aプロジェクトのプロセス全般における支援のほか、製造業、資源・エネルギー、消費財、ヘルスケア、戦略的投資家、機関投資家など、幅広いクライアントに関わる数多くのプロジェクトに従事。Kohlberg Kravis Roberts (KKR) およびゴールドマン・サックスでの勤務経験を持つ。

東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。



呉 文翔(くれ・ぶんしょう)
マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 アソシエイト・パートナー

ポートフォリオ戦略、企業買収や事業売却などのコーポレートトランザクション、統合マネジメント、投資先企業の事業価値向上施策立案など豊富な専門的知見を活かして主にプライベートエクイティファンドや総合商社のクライアントにコンサルティングを提供。資源・エネルギー、電力、消費財、ヘルスケアなど、幅広い分野において数多くのプロジェクトに従事。
2015年からマッキンゼーの東京オフィスに参画。マッキンゼー入社以前は三井物産にてエネルギーセクターでの事業投資案件に従事し、数多くのクロスボーダーM&A案件を担当してきた経験を持つ。
慶應義塾大学法学部法律学科(学士)卒業/ハーバード大学経営学修士(MBA)修了。


柳沢 和正(やなぎさわ・かずまさ)
マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー(寄稿記載当時)

日本におけるプライベートエクイティ・プリンシパルインベストメント研究グループのリーダーとして、プライベートエクイティおよび商社の成長戦略、M&A戦略、ビジネス・デューデリジェンス、買収後のバリューアップ、売却などのコンサルティングサービスを提供。加えて製造業企業から消費財企業まで幅広いクライアント企業に対して戦略立案やコーポレートファイナンスに関するコンサルティングサービスを提供。
東京大学工学系研究科修士課程修了。





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