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[【法務】カーブアウトM&A の実務と課題(柴田・鈴木・中田法律事務所 柴田堅太郎・中田裕人弁護士)]

(2020/04/17)

【第4回】カーブアウトM&Aにおける最終契約の留意点

柴田 堅太郎(柴田・鈴木・中田法律事務所 パートナー弁護士)
1. はじめに

 今回は、カーブアウトM&Aの最終契約について解説する。カーブアウトM&Aのストラクチャーにはいくつかのものが考えられるが(第2回参照)、本稿では多く採用される以下の吸収分割+株式譲渡のストラクチャーを前提とする。

 ステップ1:売主は、あらかじめ受け皿会社として設立しておいた自己の100%子会社(本稿では以下「対象会社」という)との間で吸収分割契約を締結し、カーブアウトの対象となる事業(以下「対象事業」という)に係る資産、負債等を吸収分割により承継させる。

 ステップ2:売主と買主との間で対象会社株式に関する株式譲渡契約を締結し、同契約に基づき、売主は、対象会社の発行済全株式を買主に譲渡する。

 そこで、まず吸収分割契約について触れたうえで、次に株式譲渡契約について触れることとする。

2. 吸収分割契約の留意点

 吸収分割契約において最も重要となる事項は、「吸収分割承継株式会社が吸収分割により吸収分割会社から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務」(会社法758条2号)(以下「承継対象権利義務」という)の範囲である。会社分割では、承継対象権利義務の範囲を当事者において自由に設定できることに大きな特徴があり、この点が株式譲渡取引と大きく異なるところであるが、承継対象権利義務の切り分けについては主として以下の点に留意する必要がある。

(1) 対象事業の特定・定義

 承継対象権利義務を特定する前提として、対象事業を適切に定義づけておく必要がある。特に、売主の立場からは、対象事業と類似する隣接事業や、対象事業の一部であるものの、譲渡の対象としていない事業については、対象事業の定義から除外しておく必要がある。

(2) 承継対象権利義務の特定

特定の方法

 承継対象権利義務の範囲は、実務上、吸収分割契約の別紙として添付される「承継対象権利義務明細」などと呼ばれる書面に記載することにより画定することが多い。また、承継対象権利義務のうち、資産及び負債については、承継対象として予定されている売主の貸借対照表上の勘定項目(売掛金、在庫、機械設備、前払費用、買掛金など)を記載することにより特定することが多い。

対象事業に関連する資産等の絞り込み

 承継対象権利義務を対象事業に属するものに限定する方法としては、「対象事業に関連する以下の資産(注:上記①のとおり、勘定項目が列挙されていることを想定)」などと記載することが考えられる。しかし、この場合、「対象事業にわずかでも関連していれば、売主の対象事業以外の事業(以下「対象外事業」という)に主に関係する資産であっても、承継対象となる」という帰結となり、売主のもとに残る対象外事業にとって想定外の不利益を及ぼすこととなる。

 そこで、「対象事業『のみ』に関連する以下の資産」と記載することにより、わずかでも対象外事業に関係する資産は承継対象権利義務から除外されることとなる。もっとも、買主の立場からは、少しでも対象外事業に関係している資産等であれば、承継対象権利義務でなくなってしまい、クロージング後の対象事業運営に支障を生じかねないこととなる。

 そこで、折衷案として、「対象事業に『主として関連』する以下の資産」などと記載し、少なくとも対象事業に関する主要な資産は承継対象とすることが考えられる。

 なお、以上の絞り込みの結果、承継対象権利義務から除外された対象事業に関する資産等のクロージング後の利用は、付随契約により図られることとなる(次回参照)。

不動産・特許権等

 貸借対照表上の勘定項目による特定のみでは、上記②のように「対象事業『のみ』に関する」などといった限定を行ったとしても、承継対象権利義務の特定方法としてはなお不明確であり、承継の有無の判断に不安が残るものもありうる。典型的には、不動産や特許権、商標権といった知的財産権については、その重要性ゆえにより明確に特定しておきたいところである。そこで、これらの資産については、承継対象権利義務となる対象事業に関する不動産や特許権等をリスト化し、承継対象権利義務明細に別紙として添付することにより特定する方法も実務上多く行われている。

売掛金・買掛金

 吸収分割の効力発生日までに発生している売掛金及び買掛金を承継対象権利義務に含めるかどうかも実務上よく問題となる。既発生の売掛金及び買掛金を承継対象とする場合、売掛金については支払先が売主から対象会社となり、買掛金については支払元が売主から対象会社となるが、売掛先及び買掛先の決済手続の観点から即座に移行できないという問題が生じる。そのため、既発生の売掛金及び買掛金は承継対象権利義務から除外することが少なくない。この場合、既発生の売掛金及び買掛金を引き継がない前提で対象事業の価値算定をすることとなる。なお、効力発生日(クロージング日)以降に発生する売掛金及び買掛金についてもしばらくの間は支払先・支払元の切り替えが難しい場合には、最終契約(株式譲渡契約)において、売主が売掛金の支払いを受領した場合には、対象会社にそれを支払う、同じく売主が買掛金の立て替え払いを行った場合には対象会社がこれを売主に填補する、といった方法で精算する趣旨の規定を設けることになる。

潜在債務

 対象事業に関して生じた潜在債務を承継対象権利義務に含めるかどうかも交渉上の重要論点となる。売主としては承継対象権利義務に含めることにより対象事業に関する潜在債務から解放されたいと考える一方で、買主は対象外として潜在債務のリスクを避けたいと考える。そもそも、潜在債務に関する売主・買主間のリスク分配は、株式譲渡契約において、表明保証条項の範囲(潜在債務の不存在を表明保証事項に含めるか、含めるとして重大なものに限るか、「売主の知る限り」の限定を付するかなど)や、表明保証違反に基づく補償請求権の金額上限、下限、請求期限等の条件設定を通じて行われることとなる。それにもかかわらず、もし潜在債務を承継対象権利義務に含めないとすると、基本的には対象事業に関する潜在債務のリスクは全面的に売主が負担することとなり、表明保証条項及び補償条項を通じた売主・買主間の緻密なリスク分配ができなくなってしまう。もちろん、当事者間の協議の結果、売主が潜在債務のリスクを全面的に負担するのであれば潜在債務を承継対象外とすることでよいが、当事者が一定範囲でのリスク分配を望むのであれば、承継対象権利義務の範囲に含めた上で(注1)、リスク分配の程度は表明保証条項及び補償条項の条件設定を通じて行うことが本来のあり方であるように思われる。

取引先との契約

(i) 契約の特定方法

 取引先との契約は、基本的には上記②の考え方に基づき、「対象事業(のみ)に関する第三者との契約及び当該契約に付随する権利義務」などと特定することになる。もっとも、取引先との契約でも、(a) 対象外事業にも関連するため、この範疇に該当しない契約や、(b)その...

■筆者履歴

柴田 堅太郎(しばた けんたろう)
1998年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、2006年ノースウエスタン大学ロースクール卒業。2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)、2007年ニューヨーク州弁護士登録。長島・大野・常松法律事務所を経て、2014年2月に柴田・鈴木・中田法律事務所を開設、現在に至る。M&A、ベンチャーファイナンス、コーポレートガバナンス、企業の支配権獲得紛争などのコーポレート案件を主な取扱分野とする。



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