M&AにおけるAI活用状況
ビジネス環境が大きく変化し続ける中、迅速な経営判断の重要性が増し、AI(人工知能)などのデジタルテクノロジーを活用し、競争優位性を中長期的に確立するビジネス変革が求められている。それはM&A(合併・買収)の局面においても例外ではない。
M&AにおいてAIが当たり前に存在している世界では、各フェーズのプロセスにおいてデジタル化やAIによる効率化や自動化がなされ、例えばオリジネーションフェーズではAIを含むデータ活用による予測やレコメンデーションなどが行われ、
PMIフェーズでは買収者と経営陣が主要な
KPIをダッシュボードでリアルタイムに把握し、高速でPDCAを回して変化に対応していくことができるだろう。
買収が企業価値向上に繋がるかどうかという、M&Aについての総合的な判断をAIができるようになるのはまだ先の話ではあるが、M&Aの各フェーズにおけるAIの活用は着実に進んでいる。
以降では(1)オリジネーション、(2)
エグゼキューション、(3)PMIの各フェーズに分けてAIの活用状況について詳述していく。なお、(1)オリジネーションフェーズについては、AIによるM&Aマッチングを取り上げる。(2)エグゼキューションフェーズについては、
デューデリジェンスにおける契約書レビューAIやデータ処理AIといった作業の効率化に資する活用と、将来予測AIやオペレーション最適化AIといった分析の高度化や価値創造に資する活用を概説する。(3)PMIフェーズについては、買収後の経営においてAIを活用し競争優位性を中長期的に確立するビジネス変革のためのステップを説明する。
オリジネーションにおけるAI
AIにより売り手と買い手をスピーディーにマッチングするという話を聞いたことがある方も多いと思う。これは売り手をユーザーとし、譲渡対象の企業や事業に対し買い手候補をリストアップするAIであり、近年実用化が進んでいる。
こうしたAIの代表的なアルゴリズムに協調フィルタリングがある。協調フィルタリングは、ECサイトや動画配信サイトなどでおすすめアイテムを表示させるのにも使われている手法で、この企業・事業に対し、過去に似たようなケースでこのような属性の相手先が買い手となった、あるいは興味を持ったということから、買い手候補をレコメンド(推薦)する。
協調フィルタリングを機能させるには、AIに過去のM&Aのケースを自然言語処理などを用いて機械学習に適した形に変換し、学習させる必要がある。この学習がAIの品質を左右する重要なポイントである。一口にM&Aと言っても、譲渡対象の企業や事業の規模の大小、国内企業同士のM&AかクロスボーダーM&Aか、
マジョリティ出資か
マイノリティ出資かなどでM&Aの特徴は異なる。目的や状況によって、そのデータを学習させても意味がないということもあり得るため、注意が必要である。
買い手候補の抽出をAIが行うことの効果として、(1)時間短縮、業務効率化、(2)経験や知見など属人的なばらつきの回避、(3)ヒューマンエラーによる抽出漏れの回避、(4)人の固定概念を排した意外性のある発見(セレンディピティ)などが期待される。人が買い手候補の抽出を行う場合も、過去の似たようなM&Aを探し、その買い手の共通項などから属性を考察し、買い手候補をリストアップするという、協調フィルタリングと同じプロセスを辿ることが一般的であるが、それには一定の時間がかかり、探し方や考察はそれを実施する人の経験や知見などで異なり、時にはミスが生じることもあるだろう。意外性のある発見はそれ自体を目的にすることではないが、AIが得意とする大量のデータ処理とそれに基づく予測が人間の予測能力を超え、人が思い込みで見落としてしまった予期せぬ一面を示し、新たな気付きを与えてくれることもある。
一方で、