[【小説】経営統合の葛藤と成功戦略]
2014年11月号 241号
(2014/10/15)
山岡ファイナンスサービス社と渋沢ファイナンスコーポレーション社は、1年半に及ぶ準備期間を経て、ついに経営統合日を迎えた。物理的な組織融合も開始され全社員が新たな門出を迎えたが、本社では末端に近い社員ほど多くのフラストレーションを溜めつつあった。また従業員に影響を与える役員や管理職の中にも、未だに経営統合を他人事としてしか捉えていない者も少なからずいた。
統合後の従業員のマインド
持株会社設立から数週間が経過した。持株会社に機能を移管し、組織までを一本化したコーポレート機能では多少の業務推進上の混乱が見られたが、そのほとんどが収束に向かっている。会社としてはまだ別々だが、同じ建屋の中に拠点統合された各地の支店・営業所も、一部の顧客対応でトラブルが発生しつつも全体で見れば落ち着いていた。営業拠点では過去約1年間にわたり相手会社との積極的な交流が実施されていたこともあり、特に管理職同士の連携がスムーズに進んでいたことも奏功した。営業情報をどこまで開示し、同じグループ企業としてどのように共闘体制を構築していくかにはまだ課題はあったものの、営業拠点における両社間の人間関係は概ね良好であった。いずれは一つの会社になるにせよ、まだ法人格が分かれているという安心感も大きかった。
一方で持株会社に機能集約され組織が一本化されたコーポレート部門では、表立った業務混乱は少ないものの、新しい環境になじめずストレスを抱える社員が少なくなかった。特に経営統合日まで両社間で殆ど交流のなかった末端の一般職社員は、新たな環境になかなかなじめずにいた。
また両社の役員や管理職の中にも未だに経営統合をあたかも他人事のようにしか捉えておらず、相手会社との共同検討や交流をあからさまに「面倒なことが増えた」という態度で応じるものも少なからずいた。これまでの準備期間中は「まだ統合の現実感がないのだろう」や、「いずれは全員が当事者意識を持つようになる」というように、そのようなマインドや態度は時間が解決するものと考えられてきた。しかし実際に経営統合日を迎えてみても、彼らの心持ちにはほとんど変化が生まれなかったのだ。
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