[【小説】経営統合の葛藤と成功戦略]
2015年1月号 243号
(2014/12/15)
山岡ファイナンスサービス社と渋沢ファイナンスコーポレーション社は、1年半に及ぶ準備期間を経て、ついに経営統合した。物理的な組織融合も開始され全社員が新たな門出を迎えたが、一方で従業員に影響を与えるべき役員や管理職の中にも、未だに経営統合を他人事としてしかとらえていない者も少なからずいた。
業を煮やした松尾明夫と横山友樹は、経営統合アドバイザーの大門に経営統合での意識改革の手法について助言を受けると共に、他社での具体的な失敗事例のレクチャーを受けていた。
主体化
大門はパソコンに向かうと、新たな資料をプロジェクターで投影した。タイトルに「製造業 M社事例」と記載されている。
「この企業は意識改革の途中段階で躓いたケースです。先ほどお話しした『理解』『共感』『主体化』『行動化』の4つのプロセスでいえば、3つ目の『主体化』させるところで問題が生じていました」
大門は松尾と横山に向けて説明を始めた。
「『主体化』では、『理解』と『共感』で腹落ちした事項を『自分事として捉えた状態』にしなくてはなりません。左脳と右脳で理解できた事柄に、自分との関わりを見いださせるのです。他人事とならないように、しっかりと自分の役割と責任を自覚させなくてはなりません。このM社では、経営統合の約1年前から従業員への情報発信を始め、また経営統合をはさんだ数カ月間では経営トップが現場に数多く足を運んでいました。そのような一連の取り組みが奏功し、末端従業員までの多くが経営統合の目的・意義・成し遂げたい事柄を理解しており、また健全な危機感も共有されている状態でした」
そこまで聞くと、横山が大門に尋ねた。
「これまでの事例と異なり、だいぶ良い感じで進んでいるように聞こえます。何が問題だったのでしょうか」
「具体的な行動に結び付かなかったという点です」
大門はそう答えると、別のページを投影し説明を続けた。
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