【登場人物】
- サクラ電機株式会社 社長
鳥居 聡一 - サクラ電機株式会社 副社長CFO
竹野内 悠 - サクラ電機株式会社 企画担当役員
上山 博之 - サクラ電機株式会社 本社 経営企画部 部長
堀越 一郎 - サクラ電機株式会社 本社 経営企画部 次長
木村 遼太 - サクラ電機株式会社 本社 経営企画部 スタッフ
山本 朝子 - サクラ電機株式会社 本社 品質統括部 部長
渡辺 隆一 - サクラ電機株式会社 本社 人事総務部 部長
小牧 琢也 - サクラ電機株式会社 本社 経理部 部長
松田 駿 - サクラ電機株式会社 本社 経理部 改革推進担当(木村の同期)
篠山 雄大 - サクラ・マネジメント・サービス株式会社(SMS) 社長
坂田 剛史 - エックス・オペレーションズ社(アウトソーシングベンダー)の提案責任者
赤木 憲夫
(前回までのあらすじ)
サクラ電機 本社経営企画部の次長である木村 遼太は、事業への権限委譲が進む一方で肥大化を続ける本社部門の改革を進めることになった。
人事・総務オペレーション子会社であるSMS(サクラ・マネジメント・サービス)の外部化を検討する木村たちは、外部のアウトソーシングベンダーから提案をもらうことにした。しかし、人事総務部長 小牧の策略により、提案のプレゼンテーションの場に外部化の「当事者」であるSMSの首脳陣が予告なく同席することになり、会議は荒れ模様となっていた。
これは、あるコーポレートの経営企画部次長が、様々なコーポレートアジェンダに携わり、そして経営と現場の間で葛藤しながら、自社におけるグローバル経営の在り方を模索するストーリーである。
無理難題
「それでは、頂戴しましたご提案に対し、各部門責任者より、順次質問させていただきます」
SMS社長の坂田はそう言うと、隣の男にマイクを渡した。
「私は、SMSの業務部門を統括している責任者です」
その業務部門の責任者は、笑みの1つも浮かべずに続ける。
「私からは、SMSの業務理解の確認も兼ねて、いくつかのケースにおいて、御社が業務を受託された際に、どのように対応されるかを教えていただきたいと思います」
彼は、手元にある資料をペラリとめくってその内容を確認すると、言葉を続けた。
「例えば、SMSの重要な業務の1つである社内メール便です。先ほどのプレゼンテーションの中では、配達のルートやタイミングの変更によって効率化が可能であるとのご提案がありましたが、このような場合は、どう対応しますか?」
彼は手元の資料を指でなぞりながら続ける。
資料の中身が気になった木村が目を凝らしてみると、おぼろげながら業務フローのようなものが書かれているのが見て取れた。
「事業本部からの要請で、緊急で当日中の配送依頼があったケースです。この際、書類は機密書類であるとします。配送先は、同一県内、県外それぞれのケースでご回答をお願いいたします」
意図的な無理難題の質問だと木村は感じた。
エックス・オペレーションズ社にはまだ基礎情報しか開示しておらず、彼らは通常パターンの業務フローすら見ていない。むしろ、その業務フローの開示を拒んだのは、人事総務部(そして、人事総務部と結託しているSMS)側なのだ。
赤木に目をやると、質問にうなずきながら努めて傾聴の姿勢を見せている。しかし、焦りと不快感が入り混じった感情を表すかのように、その眉間にはわずかに皺が寄っていた。
質問を聞き終えると、赤木は笑顔を作り、口を開いた。
「ご質問ありがとうございます。SMS様の多様なサービス範囲の実態をお伺いでき、大変助かります」
赤木は努めて笑顔を崩さないようにしながら言葉を続ける。
「我々が業務をお受けする際は、そういった緊急ケースを含め、SOW(作業範囲記述書)やSLA(サービスレベル合意書)を定め、どのような条件で業務遂行するか、詳細に決めさせていただきます。これまで開示いただいた情報の範囲では、現時点で詳細な対応方法をご回答しかねるのですが、今後、ぜひ皆さまと協議しながら良い方法を検討したいと思います。いずれにしても、例外対応への柔軟性は効率性とトレードオフになる部分がありますので、委託部門様のご理解を含め、良いバランスを追求する必要があると思います」
赤木は、直接的な回答を避けながら、エックス・オペレーションズ社の豊富な経験によって質問のケースも解決可能であることを想起させるように話した。
これに対し、業務部門の責任者は、口だけをゆがめるように笑った。