[特集インタビュー]

2015年1月号 243号

(2014/12/15)

金川千尋・信越化学工業会長が語る「エクセレントカンパニーを実現する経営」

  • A,B,EXコース

金川千尋

世界の上場化学メーカーで最高の「Aa3」格付

  米国の大手債券格付け機関ムーディーズが2014年11月に公表した発行体格付で信越化学は「Aa3」という、世界の上場化学メーカーでトップの格付を獲得している。*1

  信越化学の14年3月期の連結売上高は1兆1658億円、営業利益1738億円、経常利益1806億円、当期純利益1136億円。売上高経常利益率15.5%、売上高純利益率9.7%、自己資本比率80.6%という高収益企業だ。1996年3月期から08年3月期まで13期連続で最高益を更新し、その後のリーマンショック、東日本大震災という厳しい経営環境の中でも利益を出し続けている。

<最近5年間の主な経営指標等の推移>

  同社の6つのコア事業セグメントの売上高構成比は、塩化ビニル樹脂(塩ビ)・化成品37%、半導体シリコン18%、電子・機能材料15%、シリコーン13%、機能性化学品9%、その他関連8%となっている。このうち世界シェアで1位を占めているのは塩ビ、半導体シリコン、レア・アースマグネット(ハードディスク用)、合成石英(液晶フォトマスク基板)。シリコーンとセルロース誘導体は、世界シェアではそれぞれ4位、2位だが、国内シェアはいずれも1位である。

  売上高のうち海外売上高比率は71%。内訳は、アジア・オセアニアが29%(うち中国が約10%)、米国20%、欧州12%、その他が10%となっている。

  信越化学の「Aa3」格付の根拠について、ムーディーズ・ジャパンのカイラシュ・チャヤ氏(コーポレート・ファイナンス・グループ ヴァイス プレジデント・シニア アナリスト)はこう解説する。

「信越化学の発行体格付『Aa3』は、塩ビ、半導体シリコン、シリコーン、セルロース誘導体、合成石英、レア・アースマグネット、フォトレジストなどの主要製品で世界的に強固な市場地位を維持していること及び安定した財務指標を反映しています。同社は過去10年間で多様な海外事業を効率的に運営する能力を見せてきました。厳しい事業環境の中でも、安定した収益及びキャッシュフローを創出してきた実績があり、バランスシートの上のレバレッジを高めることなく米国での塩ビ事業を拡大する高い能力を示してきており、同事業の収益性も良好です。

  もう少し詳しく見てみますと、製品面及び地理的な顧客基盤の多角化が進んでいることを背景に、強固な事業基盤を維持しています。具体的には、塩ビ、半導体シリコン、合成石英製品など多数の製品において世界市場トップの地位を持ち、その他にも複数の製品において国内市場で圧倒的な地位を確立しているとともに、シリコーン、セルロース誘導体等は海外市場にも広く浸透させています。主要市場またはその近隣に生産拠点を設けているため、高い稼働率を維持し、高いコスト競争力を保って地域における需要に的確に対応しており、そのため、コア製品のほとんどにおいて、高い収益性を確保しています。

  格付には、債務水準が非常に低く、ネットキャッシュポジションが大きいという非常に強固な財務内容を有することも盛り込まれています。具体的には、14年3月31日時点の有利子負債が151億円、それに対してバランスシート上の現預金は3633億円で、調整後有利子負債対EBITDA倍率(リース、年金債務、その他一部の債務を債務として取り扱う)は0.2倍となっています。そうしたことを背景に、同社では新規プロジェクトに対する投資は内部資金を使用してきました。しかし、レバレッジが低いため、プロジェクト資金を外部から調達する場合であっても、競合に比べて有利な条件で資金調達を行う柔軟性が確保されています。この点で、有利子負債対EBITDA倍率も海外競合に比べ低いため、信越化学は財務上有利な状況にあります。

  現在の財務方針および事業戦略から見て、向こう2~3年、信越化学は引き続き強固な財務プロファイルを維持するだろうとムーディーズでは見ています。多額のネットキャッシュポジションに裏付けられた強固な財務基盤によって、今後も同社は需要の急激な変化に対して、信用力を大きく損なうことなく戦略的な対応策を取ることができるでしょう。実際これまでの実績を見ても、信越化学の業績は景気下降期にも底堅く推移してきました。事業サイクルを通じて国内総合化学業界内で最高水準のEBITDAマージンを維持してきており、下降期の厳しさを勘案するときわめて安定していたと言えます。この時期には競合の多くは営業損失を計上していました。リーマンショック後、及び11年3月の東日本大震災によるマイナスの影響を受け、需要が大幅に落ち込んだ時期にも、調整後EBITDAマージンは比較的高い20~30%レベルを維持していました。このように、景気サイクルを通じて高い収益性とEBITDAマージンを維持する信越化学の能力がAaの格付を維持する最も重要な要因のひとつと考えています。同社は、強固な事業基盤を背景に、中期的に20%以上のEBITDAマージンを維持して行けるものとムーディーズでは考えています」
 

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

スキルアップ講座 M&A用語 マールオンライン コンテンツ一覧 MARR Online 活用ガイド

アクセスランキング