[Webマール]

(2023/12/15)

[寄稿]中小M&Aガイドライン〔第2版〕、改訂ポイントの解説

田尻 雄裕 (中小企業庁 事業環境部 財務課 課長補佐)
松田 育子 (中小企業庁 事業環境部 財務課 課長補佐・弁護士)
河野 匡宏 (中小企業庁 事業環境部 財務課 係長)
4 マッチングにおける支援機関の活用

(1)依頼先の支援機関が単数/複数の場合の比較

 円滑に進まない場合には中小企業が廃業を選択せざるを得ない状況にもなり得る、マッチング支援の重要性を踏まえ、第2版では、中小企業のマッチングに係る支援機関の活用の観点から、マッチング支援を単独の支援機関に依頼する場合と複数の支援機関に依頼する場合について、それぞれの場合の利点および留意点について新たに記載した(図表3参照)。併せて、仲介契約・FA契約において、専任条項や秘密保持に関する条項を設けた場合には、他の支援機関に重ねてマッチング支援を依頼することが困難になるという注意点についても追記した。

図表3 

出所:第2版41頁

(2)適切な候補先の紹介を受けられない場合の対応

 譲り渡し側の事業者が譲り受け側候補先の紹介を受けられなかった場合の対応について記載を拡充した。まず、別の支援機関に依頼する場合の留意点として、元の支援機関との契約に専任条項やテール条項(注5)等が設けられている場合の留意点等を記載した。また、それでもなお候補先がみつからない場合の対応についても、記載を拡充した。

5 仲介者・FAの手数料の整理

 仲介者・FAの手数料についての記載も拡充した。具体的には、仲介者・FAの手数料については、レーマン方式は採用される「基準となる価額」の指標(たとえば、譲渡額、移動総資産、純資産額等)によって報酬額が大きく変動し得ること、このため「基準となる価額」の考え方・金額の目安や、報酬額の目安を確認しておくことが重要であることも追記した。

 また、登録M&A支援機関における最低手数料の分布に関するデータを追加し、最低手数料が適用される事例を追加した。

 なお、仲介者・FAは、手数料に関する事項について今回の改訂内容も踏まえて、契約締結前に依頼者である中小企業に説明することが求められる(五3において後述。)(注6)。

五 支援機関(M&A専門業者)向けの基本事項に関する事項

 第2版では、主にM&A専門業者に関する基本的事項について改訂した。なお、M&A専門業者に該当しなかったとしても、同様の業務を行う場合には対応が求められる(注7)ため、ご留意いただきたい(注8)。

1 M&A専門業者向けの基本的な事項・行動指針の構成

 M&A専門業者による中小M&A支援の特色や行動指針等策定の必要性を指摘した上で、行動指針等として、「支援の質の確保・向上に向けた取組」、一般的な中小M&AプロセスごとにM&A専門業者に求められる対応を記載した「各工程の具体的な行動指針」、特に仲介者の場合に遵守が求められる「仲介者における利益相反のリスクと現実的な対応策」および仲介契約・FA契約に設けられる一定の条項に関する留意点として「専任条項」、「直接交渉の制限に関する条項」及び「テール条項」の各留意点について記載している。

 M&A専門業者に対し求める取組みとして新設・拡充した項目は「支援の質の確保・向上に向けた取組」、「仲介契約・FA契約締結前の書面を交付しての重要事項の説明」、「直接交渉の制限に関する条項の留意点」の3項目である。

2 支援の質の確保・向上に向けた取組み

(1)改訂の背景

 改訂において、M&A専門業者向けに、支援機関の質の確保・向上に向けた取組みの項目を新設し、M&A専門業者への適切な対応を求めている。図表4をご参照願いたい。

図表4 支援の質の確保・向上に向けた取組み

出所:中小企業庁財務課「中小M&Aガイドライン改訂(第2版)に関する概要資料」(2023年9月22日)4頁

(2)改訂の内容(個々のM&A専門業者に求める対応)

 ア 契約上の義務の履行及び職業倫理の遵守

 マッチング支援等の一般的なM&A仲介業務・FA業務を行うためには、現在のところ許可制・免許制等は採用されておらず業界全体における一般的な法規制も存在していない。しかし、本ガイドラインにおいては、一般に、仲介契約およびFA契約は一定の事務処理を委任する準委任契約(民法656条)の性質を有していると考えられることを踏まえ、契約に基づく善管注意義務等(仲介業務等の依頼の本旨に照らして善良な管理者の注意をもって仲介業務等を処理しなければならない。依頼者の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図ってはならない。仲介者は、いずれの依頼者に対する関係でも公平・公正でなければならず、いずれか一方の利益を優先し、またはいずれか一方の利益を不当に害するような対応をしてはならない。)を履行する必要がある旨を明記した。

 また、M&A専門業者が取り扱う業務の専門性等を踏まえ、M&A専門業者には契約上の義務に限られない職業倫理の遵守が求められる旨を指摘し、職業倫理として、依頼者の意思を尊重し、利益を実現するための対応が求められる旨を明記した。

 契約上の義務を適切に履行し、職業倫理を遵守した対応を実現するために、支援の質の確保・向上に向けた取組みが求められるという関係にあることを指摘している。

 イ ①知識・能力の向上と②適正な業務遂行を図ること

 第2版では、支援の質の確保・向上を図る上で有益と考えられる取組みを①知識・能力の向上、②適切な業務遂行の2つに分けて整理した。各支援機関の規模や社内体制等を踏まえて、適切な取組みを実施することが求められる。

(ア) ①知識・能力の向上・②適切な業務遂行に共通する取組み

 これら①・②に共通する取組みとして、まず、「経営トップの意識」としてM&A専門業者の経営トップ(代表者)に対し求める取組みを紹介している。代表者が①と②が不可欠であることを認識し、①・②を通じて質の高い支援を社内・外に発信することを求めるとともに、発信したメッセージと整合的な取組みを実施することを求めている。

 また、「他の支援機関(特に士業等専門家)との連携」として、他の支援機関と積極的に連携することが望ましい旨、明記している(注9)。

(イ) ①知識・能力向上のための取組み

 ①知識・能力の向上は、支援の質を確保するための前提となることから、そのための実効性のある取組みが求められるとし、自社が提供する支援の内容に応じて求める知識・能力の水準の明確化、当該水準に達するような人材育成、知識・能力向上の取組みや成果の人事評価等への反映等の取組例(注10)を示している。

(ウ) ②適正な業務遂行のための取組み

 ②適正な業務遂行を通じて、支援の質を確保し、依頼者(顧客)の利益の最大化を図るため、実効性のある取組みが求められる。本ガイドラインでは、「役員・従業員の適正な業務遂行を確保するための取組」と「外部委託先の適正な業務遂行を確保するための取組」を取り上げ、具体的な取組例を示している。

(3)M&A仲介・FA業界に求める対応

 中小企業におけるM&A支援機関に対する信頼感醸成という課題に対し、民間の自律的な取組みが期待されるところ(注11)、支援の質の底上げ等のために、業界としての統一的なルールを作り、それを遵守する等の取組みが期待される旨を明記した。

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