[視点]

2024年3月号 353号

(2024/02/09)

株式を対価とする公開買付けの活用に向けて

邉 英基(森・濱田松本法律事務所 パートナー 弁護士)
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 我が国において、上場会社を買収しようという場合の対価は圧倒的に金銭であることが多い。対価が株式である場合であっても、株式交換による完全子会社化や合併・共同株式移転といった経営統合の案件などが若干みられる程度である。株式会社の株式を対価として、上場会社の株式を取得するため金融商品取引法(以下「金商法」という。)に基づき公開買付けを実施した案件はまだ存在しない。

 そもそも従来、株式会社がその発行する株式を対価として他の会社を買収しようという場合には、募集株式の発行又は処分の方法か、株式交換の方法による必要があった。しかし、前者の方法には(産業競争力強化法上の認定を取得しない限り)現物出資規制の適用があるという制約が、後者の方法には対象会社の発行済株式の全てを取得しなければならないという制約がそれぞれ存した。さらに、後者の方法においては対象会社の株主総会の承認が必要であり、かつ、対象会社の反対株主には株式買取請求権も付与されている。そのような状況の中、令和元年成立の改正会社法によって、株式会社がその株式を対価として他の会社をより円滑に買収するための手法として株式交付制度が創設された。またこれに伴い、一定の株式交付による譲渡については税制上も譲渡損益の課税繰り延べが認められることとなった。株式交付の創設以後、非上場会社を対象会社とする株式交付の事案は複数公表されている。

 他方で、株式交付によって上場会社の株式を取得しようとする場合、



■筆者プロフィール■

堀内 健司氏邉 英基(べん・ひでき)
森・濱田松本法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士。2007年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、2008年森・濱田松本法律事務所入所、2014年ミシガン大学ロースクール卒業、2014年から15年までギブソン・ダン・アンドクラッチャー法律事務所のロサンゼルスオフィスにて執務。その後2015年から2018年12月まで法務省民事局にて株式交付を含む令和元年会社法改正法の立案などを担当。主要取扱分野は、上場会社・非上場会社を対象としたM&A業務、アクティビスト対応、株主総会対応、コーポレート・ガバナンス業務などに関する案件などを幅広く扱う。『株式交付の法務詳解Q&A』(中央経済社・2023年・共著)など著書・論稿も多数執筆している。

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