2024年6月21日に閣議決定された「
新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」(「新しい資本主義」実行計画)において、中小企業の事業承継、生産性向上、スタートアップの育成など、さまざまな観点からM&A促進策が盛り込まれ、社会全体としてM&Aに対する期待が大きく高まっている。その一方で、悪質な買い手による被害事案に関する報道が話題になっている。良いM&Aを伸ばしつつ、悪質事案を防ぐためにはどのような環境整備が必要となるか。
今回、2024年6月末まで中小企業庁において
中小M&Aガイドラインの見直しなどを主導した木村拓也氏、M&A仲介事業者の業界団体において代表理事を務める荒井邦彦氏、地域金融機関においてM&A実務の最前線に立つ柴田尚氏に集まっていただき、M&A業界のあるべき姿について議論していただいた(2024年6月17日収録)。
1.はじめに
―― 最初に簡単な自己紹介として、これまでのM&Aとの関わりについてお話いただけますか。
木村 「中小企業庁財務課長の木村です。2004年に経済産業省に入省し、最初に配属されたのが中小企業庁でした。事業環境部金融課で中小企業の金融円滑化に関する業務などを2年間担当した後、経済産業省にて政府の成長戦略や法人税制改革、中小企業政策などに携わり、2022年7月、20年ぶりに中小企業庁に戻りました。今も当時も変わっていないと感じたのは、中小企業にとって事業承継が大きな課題であるという点です。他方で、事業承継はもはや親族内を前提とするものではなく、第三者や従業員によるM&Aも積極的に検討されるようになっている点、また雇用の確保・経営資源の散逸を防ぐことだけが目的ではなく、生産性向上の切り札としても認識されるようになっている点は、かつてと大きく異なっていると感じたところです」
荒井 「一般社団法人M&A仲介協会の代表理事を務めている荒井です。M&A仲介協会は2021年10月に設立した自主規制団体で、M&A仲介業の健全な発達を図り、もって日本国経済の発展と維持に寄与することを目的としています。私自身は、もともと監査法人で公認会計士をしていましたが、1997年にM&A仲介を行うストライクを創業しました。M&Aの世界に身を置いて今年で27年目になります。中小企業の案件を多数取り扱っており、全国の地域金融機関とも一緒に仕事をさせてもらっています」
柴田 「北陸銀行コンサルティング営業部第1グループ長を務めている柴田です。2008年、北陸銀行に新卒で入行しました。富山、福井、東京の営業店で8年ほど勤務した後、2016年から現在の部署でM&A仲介・アドバイザリー業務に携わっています。2024年7月からは、これまで銀行で行っていたM&Aアドバイザリー業務、事業承継コンサルティング業務、経営コンサルティング業務を新設した『ほくほくコンサルティング』に移管し、活動していく予定です。別会社化するのは、サービスの品質向上や組織体制の強化のためなので、それらをしっかりと実現していきたいと思っています」