[視点]

2021年8月号 322号

(2021/07/15)

格差の行方~世界のポピュリズムは再燃するか

山本 謙三(オフィス金融経済イニシアティブ代表)
  • A,B,EXコース
 年初のバイデン米国大統領の誕生で、世界的なポピュリズムへの傾斜はとりあえず一服したかのようにみえる。しかし、ポピュリズムの沈静化は、新型コロナウイルスの当初の感染拡大に当時の政権がうまく対応できなかったことが大きい。この間、中国は「1つの中国」を前面に押し出しながら、香港やウイグル地域に強権をふるう。米国は、バイデン政権下でも中国への対決姿勢を堅持する。世界のポピュリズムは再燃するのか。背後にある「格差」の行方を探ってみたい。

ポピュリズムの背後にある格差拡大

 ポピュリズム台頭の背後にあったのは、所得格差の拡大である。米国の下位所得層10%と上位所得層10%の平均所得(家計の可処分所得)の比率は、2007年に1:15.1だったものが、2013年には1:18.8まで拡大していた(OECD “In It Together: Why Less Inequality Benefits All”)。人種・民族別にみると、米国の「白人(White)」の家計所得の水準(中央値)は「アジア系(Asian)」を下回り、その差も拡大していた(FRB “Monetary Policy Report” 2017年2月)。白人中間層の多くがトランプ前大統領の支持に向かったのは、こうした状況への不満の表れだった。
 中国も、高い経済成長の一方で、都市部と農村部の所得格差の拡大が続いてきた。中国政府の懸念は、経済成長の恩恵が国民すべてに行きわたる前に、成長が鈍化することだ。名目GDPは日本の2.5倍に達したが、国民1人当たりの名目GDPは日本の3分の1程度にとどまる。すでに始まった高齢化が成長を押しとどめれば、1人当たり所得が米国や日本に追いつく前に、国が老いる。これを避けるため、国家の名のもとに国を1つにまとめ、政府主導で先端産業を育成しようというのが中国の戦略である。
 米中に限らず、所得格差への不満はナショナリズムに結び付きやすい。とくに経済のグローバル化が進むもとでは、「職を奪われたのは、海外が不当な安値で輸出攻勢をかけたから」との主張につながりやすい。政治の常套手段も、不満の矛先を海外に振り向けることだ。格差は、ポピュリズム、ナショナリズムの行方に直結する。

「格差」の2面性

 格差には、国際的な各国間の所得格差と各国国内の所得格差の2面がある。2000年代以降、先進国と新興国の所得格差は劇的に縮小した。世界の実質成長率への寄与率をみると、

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