[マールインタビュー]
2014年1月号 231号
(2013/12/15)
[1]東燃ゼネラル石油の製販統合
-- たくさんのM&A案件を扱われていますが、最近はどんなものがありますか。
「東燃ゼネラル石油が米石油最大手のエクソンモービルの日本事業を買収した案件があります。東燃ゼネラルは日本の上場会社ですが、エクソンモービルの傘下にあって石油精製を中心に運営していました。販売はエクソンモービル有限会社(日本法人)がエッソやモービルのブランドでやっていたのです。有限会社といっても売上高は1兆6000億円もある大きな会社で、東燃ゼネラルの株式も保有していました。日本の販売戦略は、エクソンモービルの世界戦略の中で決められ、東燃ゼネラルはそれに従って精製するしかない。日本の市場にマッチした販売戦略を立てられれば、もっと効率的な経営ができます。製造・販売一体の会社にしたいというのが日本側の経営陣の悲願でした。そんな中、2011年夏、エクソンモービルが日本市場から撤退を決め、有限会社の株式をすべて売却したいという提案があったのです」
チャンスの裏にピンチあり
-- チャンス到来ですね。
「いや、チャンスの裏にはピンチありです。同じグループといっても、相手が東燃ゼネラルに売ってくれる保障はありません。条件が良ければ競合他社に売られてしまいます。名前は申し上げられませんが、日本の競合他社の動きも活発で、むしろ先行していました。そこに売られたら大変です。製販統合の夢は吹き飛んでしまうどころか、今後、予想される業界再編に遅れを取ります。半年間、経営陣と一緒に交渉を続け、何とか買収に漕ぎ着けました」
主な取扱案件
・1989-91年 | T.ブーン・ピケンズによる小糸製作所へのグリーンメールに対する防衛策 |
・1999-2000年 | DDI、IDO、KDD間の合併(KDDIの成立) |
・1999-2000年 | 日本石油と三菱石油の合併 |
・2000-05年 | ダイムラークライスラーと三菱自動車間のM&A |
・2001-02年 | 中外製薬とロッシュ製薬間のM&A |
・2005年 | 帝国石油と国際石油開発の統合 |
・2006年 | トミーとタカラの合併 |
・2007年 | HOYAとペンタックス間のM&A |
・2007-08年 | シティグループと日興コーディアルグループ間のM&A |
・2011-12年 | 東燃ゼネラルによるエクソンモービルの日本事業買収 |
-- どんな交渉だったのですか。
「今回の交渉相手は、日本の法律事務所の弁護士も入りましたが、中心は先方の社内弁護士です。エクソン側には、グループの株式を売却することだけを専門とするチームがあります。彼らは価格のほかクリーンブレイクという条件を出しました。速やかにすべての日本事業を売却し、終わりにしたい、と。この点で、競合他社から良い提案を出してくるかもしれません。私は『お金などの条件だけではないでしょう。我々が買収する方があなた方が育ててきた会社が発展するし、社員の皆さんも幸せになりますよ』と話しました。彼らも我々の主張に耳を傾け、最後は条件面で柔軟に対応してくれました。こうして、東燃ゼネラルは製販統合を実現するとともに外国資本が過半数を所有するグループから、日本の資本が大半を握るグループになったのです」
-- 法律面で難しい論点はありましたか。
「いくつもありました。エクソンモービル有限会社が保有する東燃ゼネラルの株式は50%を少し超えていました。両社の関係は、同有限会社が親会社、東燃ゼネラルが子会社です。東燃ゼネラルが同有限会社の株式を買うことは、子会社が親会社の株式を取得する形になります。しかし、会社法では、子会社が親会社の株を買うことは禁止されています。ですから、同有限会社に保有株の一部を売却してもらいクロージングまでに親会社ではない形にする必要がありました。そのこと自体はそんなに難しくないのですが、親子関係でなくなることによって派生する諸問題の処理が大変でした。また、同有限会社が東燃ゼネラルの株式をもっていたことから、念のため、自己株式取得の財源規制の関連も考えて、買収対価を支払っても、東燃ゼネラルの分配可能額がマイナスにならないよう知恵を絞りました。ビジネス上の理由もあったのですが、同時に分配可能額の制約もあって、エクソン側に東燃ゼネラル株式の一部を持ち続けてもらうことにしたのです。あと、外部からは、子会社が親会社の言いなりに取引をしているのではないかと誤解されかねませんので、そうではないということが分かるようにするため、価格面においても手続き面においても公正で、取締役の善管注意義務に違反しないよう細心の注意を払いました。私の長い経験の中でも難しい案件でした」
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