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[M&A戦略と会計・税務・財務]

2020年8月号 310号

(2020/07/15)

第156回 M&Aを通じた企業価値の向上と人事改革ソリューション

倉澤 一成(PwCアドバイザリー合同会社 シニアマネージャー)
新田 克巳(PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター)
1) M&Aを通じた企業価値向上と人に関する課題

M&A実施企業はシナジー創出を実現できていない

 2018年にPwCが実施した調査では、M&Aを実施した企業(買い手側)の約80%が買収価格を決定する際にシナジー(売上増加・コスト削減等)を見込んでいる一方で、実際には60%超の企業でシナジー創出のための施策を達成できていないという結果となっていた(※2018年11月 PwCレポート「Creating value beyond the deal」)。

 買収価格を決定する時にはシナジーの期待値を定量化しているにもかかわらず、その実現に向けた具体的なアクションが計画化されていない、あるいは策定した計画の実行に十分な力を注げていないことが見てとれる。多くの企業において、M&Aが成立した時点で一息ついてしまい、本来そのディールの目的であったシナジー創出や企業価値の向上に十分なエネルギーを投入できていない。実際、2019年に行った別の調査でも、Day1において本来は価値創造を優先すべきところ、事業運営の安定化のみに注力することで、価値創造が実現できていないケースが多いという結果にもなっている。

 こうしたことの原因として、企業価値向上に向けたシナジーの算出と、それを実現させる統合後の絵姿、さらにその絵姿に向けた具体的な道筋が、M&Aの早期の段階で一貫・整合した形で描けていないことが考えられる。結果的に、本来の目的である企業価値の向上に資する打ち手をやりきることができていないのだ。

バリューブリッジ

 M&Aを通じた企業価値の向上を検討する際には、バリューブリッジの考え方を用いることが有効だ。

 バリューブリッジとは、M&A案件において、企業価値を向上させる施策を網羅的かつ具体的に特定し、施策の効果を定量化するためのツールである。M&Aの目的や形態によってブリッジの内容・構成は様々であるが、M&Aによる新規事業への進出や新技術の獲得により創出される効果、売上・コストシナジーの実現による効果、資産効率向上や節税による効果等、当該M&Aを通して実現しうるバリューアップ効果を網羅的に織り込んだブリッジを作成することが重要になる(図1)。

 このツールを使うことによって、企業価値の向上をM&Aの目的として明確に位置付け、具体的な効果を試算して意図した企業価値を実現する最終形をイメージ・具体化することで、価値向上の機会を逃さず、打つべき施策を講じることにドライブをかけることが可能になる。

図1 バリューブリッジの例

ブループリント

 バリューブリッジによって明らかになった企業価値向上の実現に向けて、M&A実行後にPMI(M&A後の統合)に取り組むことになる。特に、事業構造やオペレーションの改革・改善、シナジーの創出に向けた、統合後の絵姿およびその道筋のブループリントを明確化することは、PMIの効果と効率を最大化することにつながる。ブループリントを作成する際は、一般的に、統合後のビジョンと戦略の概要、戦略遂行のための組織体制の在り方、統合により生じる機会とリスク、そしてシナジー創出のテーマと、創出に向けた体制および進捗管理の仕組み等を定義することになる(図2)。財務・税務・法務などに加えて、ビジネスやIT、人事などの領域についてもデューデリジェンスを行い、PMIの初期段階で、こうしたブループリントを作成して、組織内で共有することによって、Day1以降に企業価値向上・シナジー創出に向けた活動を漏れなく適切に展開することができる。

図2 ブループリントの構成要素~買収・子会社化の例

シナジー創出に欠かせない人に関する課題

 バリューブリッジ、PMIブループリントなどを活用することで見えてきた企業価値向上の道筋を、実際に実行する際に避けて通れないのが、人についての課題だ。企業活動のほとんどは何らかの形で人が関わっており、企業は人の集団でもある。どういう人がどういう仕事の仕方をするのかが、企業の活動そのものになる。であるならば、人の構成・構造や意識・行動等に対する打ち手は、企業価値向上に向けて欠かせないことになる。

 例えば、図3はM&Aによって得られるシナジーとして直接的な売上シナジー、コストシナジーを挙げ、加えて、中期的な価値創出につながる研究開発等を含めたナレッジ面の効果やM&Aを機会として過去のしがらみ等をリセットすることの効果について、それらを具体化する施策と関連する人の課題のいくつかを列挙してみたものである。シナジー実現に向けた施策の多くが、人に対する課題を伴っていることが見て取れる。

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