[寄稿]

2016年11月号 265号

(2016/10/18)

情報の経済学とM&A契約 - 情報の非対称性が内在するM&A取引を推進・履行させる契約メカニズムとは -

 マール企業価値研究グループ
  • A,B,EXコース

  株主価値最大化を目指して行うM&Aは、戦略的にも財務的にも重要な経営判断を伴い、通常は同じ相手との1回きりの取引であるため、当事者は必要以上に真剣かつ慎重になる。しかも、売主は取引対象に精通しているものの、買主は、短期間のデュー・ディリジェンスによって取引対象を分析することを求められ、M&Aは、「情報の非対称性」が存在するなかで行われる取引といえる。また、あらゆる事態に備えた取引条件について予め合意し、完璧に契約に落とし込むことは難しく、契約は必然的に「不完備」とならざるを得ない。本稿では、「情報の経済学」のフレームワークを概観するとともに、社会的に価値を創造するM&A取引を推進・履行させるために、不完備な「M&A契約」に盛り込まれた、情報の非対称性の解消を意図した工夫について考察してみたい。

1. 情報の非対称性(Asymmetric Information)

  自由意思に基づいた経済活動の営みを通じ、各取引主体が少なくとも現状を上回る効用や経済的利益を実現し、社会的厚生のパイ(Social Welfare)を拡大する効率的な取引は行われるべきである。これは、市場原理に基づく完全競争の利点を主張する経済学の代表的な考え方の一つであるが、時として市場は失敗し、その原因は、情報の経済学という分野における情報の非対称性によって説明される。

  ここで、情報の非対称性とは、取引対象となる商品やサービスにかかる情報が取引主体間において異なる状態をいい、この情報格差は、社会にとって望ましい取引の履行を阻害しかねない。具体的には、取引開始前と後における情報の非対称性に分けることができ、前者は取引対象の品質や取引相手のタイプに基づく「逆選択」、後者は取引相手の行動に基づく「モラルハザード」を引き起こす。

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