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[編集長インタビュー]

2014年12月号 242号

(2014/11/15)

「伊藤レポート」の本質に迫る ~企業価値経営の到達点~

 伊藤 邦雄(一橋大学 大学院商学研究科 教授)

伊藤 邦雄(いとう・くにお)

<目次>

「伊藤レポート」の本質

伊藤プロジェクトの位置付け

-- 本年(2014年)8月に経済産業省から『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクトの最終報告書、いわゆる「伊藤レポート」が公表されました(注)。そのプロジェクトの座長をされました伊藤邦雄先生に、このレポートの本質について語っていただきたいと思います。先ず、プロジェクトができた経緯からお願いします。

「このプロジェクトは、昨年(2013年)7月に経済産業省内に設置されたのですが、その大きな刺激になったのは、そのまた1年前に公表された『ケイレビュー』です。ロンドンスクールオブエコノミクスのジョン・ケイ教授が座長となり、英国貿易産業省がスポンサーになって、議論した結果をまとめたものです。問題意識は、当時の英国企業のイノベーション創出能力、あるいは無形資産を構築する力が大きく弱体化しているという危機感があり、その原因は資本市場、投資家の短期志向(ショートターミズム)化ではないかということでした。思い込みや印象論ではなく、エビデンスベースの議論を尽くした結果、投資家の短期志向化が、企業の意志決定の短期志向化等の悪影響を及ぼしているとの問題提起をしました。
  では、日本ではどうなのか。印象論としては、英国のように日本企業の経営の短期志向化が深刻化しているようには見えないが、日本の資本市場が英国同様に短期志向化しつつあるのは間違いない。ひょっとしたら、アベノミクスのキーワードの1つにもなっている日本企業の『稼ぐ力』が非常に弱くなっていることと関係があるのではないか。我々も、思い込みや印象論ではなくて、データ等のエビデンスをもとにきちんと議論する必要があるということになり、このプロジェクトの創設に至ったわけです」

-- ずいぶん大きなプロジェクトですね。

「メンバーは53人で、各界の有力な方々に集まっていただき、1年間で16回の総会と分科会もあわせて30回程の議論をしました。また、このプロジェクトでは、全ての公表資料について英語版を作りました。最終報告書や、本年4月公表の中間論点整理はもとより、総会議事録の要旨もそうです。そのため海外の注目度はプレスも含めて非常に高く、最終報告書は日本では『伊藤レポート』ですが、海外では『ケイレビュー』に倣って『イトウレビュー』と呼ばれています。2014年4月に公表した中間論点整理の英語版に対しては、多くの意見や海外データ等のエビデンスをいただき、それを最終レポートに反映させることもできました。経済産業省にとっても、例えば、審議会の議事録や報告書の英語版を公表するということはしていませんでしたので、初めてのやり方だったということですが、大きな手ごたえを感じていると思います」

「伊藤レポート」の特徴 ~ROE8%のインパクト~

-- このレポートと「ケイレビュー」とを比較した場合の特徴は何でしょうか。

「我々の方が議論のスコープが広くて、資本市場・投資家だけでなく、経営者・企業側にも同じウェイトを置いています。さらに、この企業側と投資家側の関係性についてもスポットライトを当てている。3つの視点ですね。こららを『インベストメントチェーン』と言っていますが、お金の出し手(アセット・オーナー)がいて、それらが機関投資家(アセット・マネージャー)に運用を任せ、そのお金が企業に投資され、企業が配当等のリターンを返す。そのそれぞれの部分にいろいろな問題が潜んでいるのではないか、というのが問題意識です」

-- レポートへの反響について教えてください。

「びっくりしたのですが、批判とか、反対意見はほとんど見られませんでした。『その通りだ。よく言ってくれた』と。今までのパターンは、『もっと日本企業は、ROEを重視すべし』というと、『またROEですか、先生』という反応だったのが、今回は産業界の集まり等でこのレポートについて講演すると『その通りですよね』と言われる。海外の投資家等は、『感動した』とさえ言ってくれます。内外の報道でも数多く取り上げていただいています。
  そのポイントの1つは、『最低限8%を上回るROEを達成することに各企業はコミットすべきである』と数字を出した点だと思います。この点は、プロジェクトの会議でも議論が割れたところで、数字が一人歩きするリスクがあるという意見です。本来なら『資本コストを上回るROEを上げてください』と言うべきところかもしれませんが、『資本コスト』の理解はまだまだ進んでおらず、企業毎に違うので、メッセージとしては弱い。ということで、思い切って数字を言うことにしました。何故8%かということですが、エビデンスベースで、日本と海外の機関投資家に、『日本企業に対して平均何%の資本コストを想定していますか』というアンケート調査をしました。日本の機関投資家は平均6.3%、海外は平均7.2%でした。そこで最低限8%としたわけです。
  例えばブルームバーグの9月17日の報道では、『利益の出遅れ組がやっと8%のリターンを求めると言っている』とびっくりしている。要するに日本企業はこの20年の間、海外投資家から『利益(プロフィット)の落伍者』と思われてきました。20年間平均のROEは4.5~5%ですから、日経平均もトピックスも上がりようがない。図表は、主要各国の株価インデックスですが、1989年を100とすると、日経平均とトピックスだけが、底辺を這っています。
  政府も、アベノミクスで『稼ぐ力』と言っているし、再興戦略の改訂版でも収益性を高めると書いてはいますが、今回ROE8%という具体的数字を出したインパクトは大きかったですね。私自身は、これは日本が国内・海外に向けた不退転のコミットメントだと位置付けています。最近の日本企業のROEは7%に近くなっていますが、これが来年以降ストンと下がって、日本は元に戻ったのかと言われないようにする必要がある。内外にこれだけ言ってしまったわけですから、後戻りできないと思います」

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