[書評]

2006年4月号 138号

(2006/03/15)

BOOK『M&A最強の選択』

服部暢達著 日経BP 2400円(本体)

M&A最強の選択
 M&Aという言葉が国民の間に広く浸透し、日本の企業の経営手法として定着する一方、ライブドアのようにM&Aを悪用した刑事事件が起きている。何が本来のM&Aか、真贋を見分けることが必要な時代になってきたが、そのためには格好の本である。
 ライブドアによるニッポン放送の株取得も取り上げられている。著者は、時間外取引を使った株取得を、公開買付規制を回避するためで違法の疑いが高く、実態を捜査すべきだ、と事件直後から主張していた。具体的事実を列挙しながら、この事件の本質が、当初から売り抜け利益の獲得を目的とするグリーンメーラーだったことを明らかにしている。さながら推理小説を読むような謎解きはさすがだ。ライブドアがやったことは、日本のM&A法制のループホールを狙ったもので、「日本の資本市場がいずれライブドア経営陣に対し正しい判断を下す時がくる」と書いているが、検察の捜査がいち早くライブドアを追い詰めることになった。
 この株取得を契機に、日本もいよいよ敵対的買収の時代に入ったが、この間の買収防衛策をめぐる理論と動きが概観できる。「官民共同での、敵対的買収防衛策の一大創造作戦が展開された」といい、提唱される信託型の日本型ポイズンピルについては、欠陥商品だと手厳しい。米国のピルが、買収者の株式を永遠に希薄化できるのに対し、日本型は1度しか希薄化ができない点で「火縄銃」であり、高額のプレミアムを払うことを覚悟した戦略的買収者は撃退できないからだという。
 日本の会社法が、発行可能株式数について4倍の授権枠を設けていることからくる制約である。ただし、支配権獲得を目的としないグリーンメーラーには効果がある。戦略的買収者を排除しないという点と合わせると、意図したものとは違うが、結果的にはこれでよいのかも知れないと皮肉っぽく語る。
 では、今後、日本のM&Aはどうなるか。著者は最もあり得るシナリオとして、2000年代後半、LBOブームの到来を予想する。敵対的買収が特別なものでなくなったことや、日本のメガバンクがLBOに不可欠なノンリコース・ローンの供給に意欲を示すなど、条件が整ってきたことを挙げる。MBOを利用した上場企業の非公開化も起きている。著者の言うようにすでにLBOブームが始まっているのかも知れなのだ。
 強圧的な2段階買収を可能にする日本の現行の公開買付制度とLBOブームが同時に日本を襲うと、次々に優良企業が資産の切り売りをする買い手の軍門に下る可能性があると警告する。日本でM&Aの第一人者といわれる著者の警告に耳を傾けたい。(青)

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