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[対談・座談会]

2018年12月号 290号

(2018/11/15)

[座談会]M&A関連法制と実務の最新動向[2018年版]~変動する米国・国際社会と国際M&A実務への影響~

池田 祐久(シャーマン アンド スターリング外国法事務弁護士事務所 東京事務所代表 外国法事務弁護士)
中山 龍太郎(西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士)
武井 一浩(西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士)(司会)
左から武井 一浩氏、池田 祐久氏、中山 龍太郎氏
左から武井 一浩氏、池田 祐久氏、中山 龍太郎氏
<目次>
はじめに
  1. トランプ政権と米国のM&A
    トランプ政権からの影響とイノベーション・ドリブンのM&A
  2. バリュエーションに関する判例実務から垣間見られる米国裁判所のインベストメント・バンカー化
    予見可能性が損なわれるデメリット
  3. 企業結合規制(競争法規制)の実務動向
    話題を呼んだYale大学学生の論文
    ビックテックと競争法
    いつか来た道なのか、それとも国境を跨いだ未知の難題なのか
    欧米競争当局間のスタンスの違い
  4. CFIUS(外資規制)をめぐる動向
    政治色が強い産業政策としてのCFIUS
    中国にオペレーションがある日本企業にとってはCFIUSは無縁ではない
  5. 国際M&A契約実務において注目される現象
    ロックド・ボックス方式
    ロックド・ボックス方式がガンジャンピング規制に抵触しないか
    M&A契約の規律において「米国は買い手優位、欧州は売り手優位」の傾向
    ロックド・ボックスは米国では欧州ほど浸透していない
    イノベーション・ドリブンによって案件のスピード化がますます進展
    値上がりするリバース・ブレイクアップ・フィー(RBF)
    巨額のRBFの支払をめぐる重大係争が勃発
    表明保証保険(レプワラ保険)
    国際M&A契約に見られる傾向
  6. 米国M&Aにおけるアクティビスト対応
    価格決定プロセスの重要性
  7. 日本のガバナンス改革での取締役会改革からの影響
    米国の取締役会は独立社外者が多くても機動性・スピード感が違う
    米国の独立社外取締役のM&A取引における役割は専らプロセス審査である(取締役会が行っているoversightの実態)
    日米の取締役会におけるM&A付議・審査の実態には大きな差異がある
    M&A案件においてCEO+CFO+法務担当役員が社内役員のキーパーソン3人衆
  8. 株対価M&Aの状況
はじめに

武井 「12月号の特集座談会は、M&Aに関連した法制や実務の動向について1年間を振り返るという企画で、2014年から始めて、今年(2018年)で5回目です。本年の日本のM&A法制では、産業競争力強化法の改正による株対価M&A(Exchange Tender offer)の解禁が大きなイベントだったわけですが、そのテーマは本誌8月号の特集で取り上げましたので、本号では、激しく変動する国際社会、特にアメリカの動きとその影響を受ける海外M&A実務の動向について、その分野に詳しいお二人の弁護士とともに、多角的な観点から議論していきたいと思います。よろしくお願いします。まず、シャーマン アンド スターリングの池田先生から、簡単に自己紹介をお願いします」

池田 「池田です。ニューヨーク州の弁護士で、ニューヨークを本拠地としたシャーマン アンド スターリング法律事務所のパートナーです。マネージメントの立場としては、事務所全体の経営主体であるエグゼクティブグループの一員、アジア地域代表、そして、東京事務所代表の3つの役割を負っています。実務としてはM&Aを含めたコーポレート分野ですが、日本企業を代理することが多く、訴訟対応も頻繁にあります。今日は、海外、特にアメリカの潮流の様々な変化と実務への影響など、いろいろとお話しできればと思います」

武井 「よろしくお願いします。では中山先生、よろしくお願いします」

中山 「西村あさひ法律事務所の弁護士の中山です。1999年に弁護士になり、2000年代前半はM&Aが業務の大半でしたが、2000年代半ばに留学し、その後独禁法の実務もやるようになりました。今は、企業結合規制とM&Aの実務が半分ずつという感じです。実務では、海外の競争当局の動向やいわゆるCFIUS(Committee for Foreign Investment in the United States)による対米外国投資規制の動向が重要な仕事になるのですが、今日は、池田先生から最新の米国の動向等をお聞きできるということで、非常に楽しみにしています」


1 トランプ政権と米国のM&A 

トランプ政権からの影響とイノベーション・ドリブンのM&A

武井 「まず、アメリカのマクロ的なM&Aの状況について確認しておきたいと思います。金融緩和が依然として続く中、M&Aも依然として活発だと理解していますが、トランプ政権後の動向を含め、池田先生はどう見ておられますか」

池田 「アメリカのM&Aの潮流ということでは、3つ指摘したいと思います。1つはトランプ大統領。2つ目がイノベーション。テクノロジーですね。そして3つ目が、バリュエーションに関する判例の動向に関連して、裁判官を含めた関係者がインベストメント・バンカー化(投資銀行化)している点です。いずれも、日本企業のM&Aに大きな影響を与えうる、と考えます。

 まずマクロ的なM&Aの状況です。アメリカのM&Aは全体として活発で、2018年の前半を見ても、ディールの件数・金額ともに大きく、昨年を上回っています。中身を見ると、100億ドルを上回るいわゆる「メガディール」が大変多く、その件数は上半期だけで昨年1年分に並ぶ勢いです。国内外の案件数を比較すると、クロスボーダー案件は5%ほど減っていますが、逆に米国内のM&Aは増えています。

 M&A全体の伸びの要因としては、武井先生もおっしゃった金融緩和による調達コストの低下が挙げられますが、それに加えて、先ほど2つ目のトレンドとして挙げた、イノベーションに因るテクノロジー系の案件が大きく増加している点が見逃せません。この動きは、新しいビッグテックの会社に見られるだけではなくて、トラディショナルなビジネスモデルの企業にも広がっています。トラディショナルな企業から見てもIoTを含めてイノベーションのプレッシャーを受けていて、彼らも新たな合従連衡をしないといけない、又は立ち遅れないためにテクノロジーの会社を買収しなくては、という状況になっています。日本企業も同じで、ご承知のように例えば、トヨタも活発にテクノロジー系の会社と連携したり、投資したりしています」

武井 「ありがとうございます。ちなみにトランプ政権によるM&A市場への影響についてはいかがでしょうか」

池田 「付き合いのあるバンカーやクライアントに聞いても、トランプ政権によるM&Aへのネガティブな影響は聞こえてきません。確かにトランプ政権は非常に内向きで、関税引き上げが中国との貿易戦争を引き起こすのではないかといった懸念や再選されるかどうかといった、不確定要素が多々あります。反面、税制改革による減税や金融緩和は言うまでもなくポジティブに評価されていますから、トータルとしては、M&A市場に対する影響は大きくないという認識が主流です。

 ただし、日本企業にとってどうかというと、トランプはビジネス的に非常に分かりやすく、そこをチャンスと捉えることができそうです。例えば、トランプはアメリカでの雇用創出につながるディールは基本、ウェルカムですから、日本企業がM&Aをする際には、米国内雇用を創出する側面を強調しPRをすることが大事になっています。

 面白いのは、AT&Tとタイムワーナーの統合案件における独禁法の審査でトランプが口を挟んだ際、AT&Tがトランプにいきなり献金をしています。トランプ大統領はギブアンドテイクの星取り勘定を付けており、敵味方もはっきりしていますので、日本企業としてはそういったメリハリをきちっと押さえてM&Aに臨めば、実はやりやすいのではないか。

 例えば、後ほどCFIUSなど、外資規制の話が出てくると思いますが、明らかにターゲットは中国などトランプ大統領が懸念を抱えている一部の国であって、日本はターゲットの中心ではありません。中国企業がCFIUSで苦労している間に逆に日本企業の案件の審査はスムーズに進むようになるのかもしれません(笑)」

武井 「M&Aは、経済活動とそれを取り巻くマクロの経済状況の縮図だということがよく表れたお話ですね。特にイノベーションの点は日本でも重大な課題になっています。IoTはメーカーにITテクノロジーが入ってくる話ですし、金融機関のフィンテックも同様です。まさにテクノロジー・ドリブン、イノベーション・ドリブンで、いろいろなテクノロジー絡みの投資をする必要に迫られています。投資活動には当然M&Aも入ってきます。また本誌で前回の座談会で取り上げました産業競争力強化法の改正による株対価M&Aの解禁の話もリンクしています。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)など、先行するアメリカ企業に日本企業はなかなか追い付けない。日本政府も、第4次産業革命とか、ソサエティ5.0といった表現で、国を挙げて環境整備を行っていますが、アメリカはますます先に行っているのが実感です。中山先生からはいかがですか」

中山 「私もいろいろなクロスボーダー案件に携わっていますが、テクノロジーが重要な案件が非常に多くなっています。M&Aの定義にもよりますが、いわゆる業務提携やジョイントベンチャーの組成などを含めると、テクノロジーにかかわるアライアンスはもの凄い勢いで増えていて、特に、国境を越えるものが目立ちます。ただ、この動きは、ここ1~2年のものではなく、数年前からのトレンドです。例えば、私が担当した2013年の東京エレクトロンとアプライドマテリアルズの統合案件も、テクノロジーを核とした合従連衡でした。この案件は、残念ながら各国の独禁法当局の承認が得られず、途中でディールを諦めたという経緯がありますが、テクノロジー独占に対する監視の目がますます厳しくなり、この緊張関係の高まりが最近の特徴かと思います。それから、トランプの影響ですが、私もあまり感じることはありません。

 1つあるとすれば、外資規制をつかさどるCFIUSがかなり国益を全面に出した動きをしている点です。ただこの点も、トランプ政権になって流れが急に変わったというよりは、従来からのテクノロジーや産業の集約に対する各国の主権というか、国家的な関心の高まりが具体化したということかとも思います。そのため、最近はアメリカ、ヨーロッパといった独禁法先進国に加えて、例えば南アフリカや中国なども規制が厳しくなり、国際的なM&Aを進める上で、ディールの成否を分けるキーとなっています。これは、必ずしも純粋な競争法の観点だけではなく、その国の経済や雇用にどういう影響を与えるかという観点から当局が規制しますので対処が難しく、数年前から実務上の課題となっています。

 ただ、池田先生もおっしゃったとおり、世界各国の当局から見ると、日本からの投資はむしろ歓迎であり、日本企業はある意味競争優位的なポジションを取る余地がまだまだあると思います」


2 バリュエーションに関する判例実務から垣間見られる米国裁判所のインベスト・バンカー化

武井 「前2つのお話はさらにこの先で議論するとしまして、3つ目のバリュエーションに関する判例の動向については、池田先生、いかがでしょうか」

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