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[対談・座談会]

2020年12月号 314号

(2020/11/16)

[座談会]2020年の企業法制の振り返りと論点 ~ 事業再編実務指針を踏まえた事業ポートフォリオマネジメント/ストラテジックレビュー

【出席者】(五十音順)
秋山 健太(ラザードフレール 代表取締役社長兼COO)
安藤 元太(経済産業省 産業組織課長)
吉村 典久(大阪市立大学大学院経営学研究科 教授)
武井 一浩(西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士)(司会)
左から秋山 健太氏、武井 一浩氏、吉村 典久氏、安藤 元太氏

左から秋山 健太氏、武井 一浩氏、吉村 典久氏、安藤 元太氏

<目次>
第一部 法制度に関する2020年の主要事象の紹介
第二部 事業再編実務指針を踏まえた事業ポートフォリオマネジメント/ストラテジックレビュー
  • 一 はじめに
  • 二 事業再編実務指針の概要
    1. 事業ポートフォリオマネジメントの基本的意義
      • 事業再編実務指針のポイント
    2. 事業評価の指標等
      • 事業評価の仕組みの構築と運用 ~『4象限フレームワーク』
      • 取締役会が事業ポートフォリオの監督にどのように関わっていくか
      • 本指針を踏まえたストラテジックレビューの実務現場の視点
      • ペアレンティング
      • 事業の定義がキモ(照明事業も「明かり」なら成熟産業だが「情報通信端末」なら先端産業)
    3. 新型コロナと事業ポートフォリオ再編
  • 三 日本における“スピンオフ史”を踏まえて
    1. 日本の大企業の4社に1社はスピンオフによって生まれた
    2. スピンオフは産業構造の変化に対する有効な対応策であった
    3. 成功した事業には社内の大反対が必ず伴っていた
    4. 親子間でのウィンウィンの連携がキモ
    5. ベストオーナーには社内で眠っている経営資源を活かす経営力が問われる
    6. 稼ぎ頭の変化のスピードが鈍化している日本
    7. 新規事業を「中に残す」「外に出す」以外に中間的選択肢もある
  • 四 ストラテジックレビューの実務
    1. 攻めのポートフォリオマネジメント(アクティブ・ポートフォリオマネジメント)が重要
    2. 欧米企業における成功例
      • 米IBMの事例
      • オランダPHILIPSの事例
      • 欧米企業は日常業務の一環としてストラテジックレビューを行っている
      • 過当競争で利益率が低い日本企業
      • 米国のDow ChemicalとDupontの事例
      • 生まれては外に出しているスウェーデンのElectroluxの例
    3. アクティブ・ポートフォリオマネジメントのキモ
      • 「トップ3か」+「コアコンピタンスに合致しているか」+「横串でつながっているか」
      • 複数のKPIを総合的に勘案しているのが欧米企業
      • ROIC等の特定のKPIに縛られて経営のジャッジメントを伴わないポートフォリオレビューに陥らないこと
      • 経営としての『意思』が重要
  • 五 制度的対応
    1. スピンオフ制度の拡大
      • スピンオフ制度の範囲拡大
    2. 株対価M&A制度の拡大
      • 株対価M&A制度がない日本ではDX時代に対応していけない
  • 六 最後に
第一部 法制度に関する2020年の主要事象の紹介

武井 「本年も、まず第一部として2020年の企業法制の振り返りを、きわめて簡単にですが行いたいと思います。

 第1に、2019年12月に会社法の一部を改正する法律が成立しました。2021年春の施行ですが、その中で、株対価M&A、株式交付制度の解禁など、いくつかM&Aに絡む重要な事項がありました。

 2点目は、2007年9月4日付『企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針』が、策定後の実務の蓄積や環境変化等を踏まえ2019年6月28日に『公正なM&Aの在り方に関する指針―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて―』として改定され1年間が経過し、この間、様々な案件が公表されましたが、MBO完全子会社化における実務に目に見える形で変化があり、重要な影響のある指針となっています。

 3点目がこのMBO指針にも絡みますが、以前から言われていた論点でもある親子上場問題に関する関心が高まっています。親子上場問題は、今日取り上げる『事業再編実務指針』にも絡む面があるわけですが、親子ともに上場している状態において上場子会社のあり方がより論点になっています。上場子会社である状態にどの程度経済合理性があるのかを親会社等で考えてほしいというもので、それに関していろいろな動きがありました。直近で言いますと、上場会社に対して独立社外取締役の比率3分の1以上を求める動きがありますが、独立といったときには、親からの独立性も見なければならないという見直しがあったり、東京証券取引所から支配株主のいる従属会社における論点整理が公表されたりしています。こういった情報開示の拡充や支配株主の定義について、親会社に限るのか、支配的株主とは何なのかといった論点が出ています。親子上場を巡る論点についてはこれからも継続的に議論がなされ、実務にも関心が高いのだろうと思います。

武井 一浩(たけい・かずひろ)

武井 一浩(たけい・かずひろ)

西村あさひ法律事務所 弁護士(パートナー)
89年東京大学法学部卒、96年米国Harvard大学ロースクール(LL.M)卒、97年英国Oxford大学経営学修士修了(MBA)。91年弁護士登録、97年米国NY州弁護士登録。金融庁「ステュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」メンバー、経済産業省「公正なM&Aの在り方に関する研究会」委員、「事業再編研究会」委員等を現任。
主な著書(共著を含む)として、「デジタルトランスフォーメンション法政実務ハンドブック(商事法務)、「株対価M&Aの実務」(商事法務)、「コーポレート・ガバナンス・コードの実践」(日経BP)など。

 4点目に、市場構造の見直しについて昨年末に方向性が示され、今年の春に東証からその概要が公表されました。プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つに再編し、さらに、一部上場のトピックスという指数の概念を切り離して考えることになりました。機関投資家への視線や市場ごとのコンセプトを明確にしようというもので、これも上場会社を巡る大きな構造、大きな制度の変更になるだろうと思います。

 最後に5点目ですが、本年7月に経済産業省から2つの重要なガイドラインが出ています。1つが今日取り上げる『事業再編実務指針』で、もう1つは『社外取締役ガイドライン』です。これまでコーポレート・ガバナンス・システム研究会(CGS研究会)で行われた議論は、一昨年は『指名・報酬委員会に関するガイドライン』、昨年は『グループガバナンスに関するガイドライン』にまとめられましたが、今年はその辺りの様々な議論のエッセンスを社外取締役の目線で、社外取締役が果たすべき役割に関して実務的な観点から取りまとめています。特に、会社法改正で社外取締役設置が義務化されることになり、MBO指針を含めて社外取締役に求められる役割について多くの項目が示されていることもあり、『社外取締役ガイドライン』という形で、社外取締役の目から分かりやすくどういったことを進めるのか。私の言葉で言いますと、監督機関による『間接民主制』と株主による『直接民主制』という言い方をしているのですが、一定の監督機関が業務執行側をきちんと監督している間接民主制は、世界的にもかなり汎用性のある制度になっていますし、監督機能の拡充があってこそ、企業の中長期的な経営環境が達成されるということでもあります。そういった監督機能の整備・強化という観点から改めて重要なガイドラインが出たということになります」


第二部 事業再編実務指針を踏まえた事業ポートフォリオマネジメント/ストラテジックレビュー

一 はじめに

武井 第二部に入ります。経済産業省から、事業再編研究会における議論等を踏まえ、今年7月に『事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~(事業再編ガイドライン)』が公表されました。これはいろいろな形で重要なインパクトを持ち、かつ、企業側の関心も高い内容となっています。本研究会は世界的な新型コロナ感染拡大前に設置されましたが、新型コロナに伴う社会環境、経済環境、経営環境の変化に伴って重要なテーマが取り扱われています。今日は、本ガイドラインを所管されている経済産業省産業組織課の安藤課長、ラザードフレール社長の秋山COO、大阪市立大学の吉村教授にお集まりいただいてご議論をいただきます。ではまず皆さま、自己紹介をお願いします」

安藤 「経済産業省産業組織課長の安藤です。この7月に着任しましたが、2016年から2018年にも2年ほど産業組織課におりまして、ちょうどその時、スピンオフの税制改正や、株式対価のM&Aに関する税制改正と会社法の特例など、一連の事業再編周りの制度変更に関わっていた立場です。よろしくお願いします」

秋山 「ラザードフレールの秋山と申します。15年前に独立系グローバル投資銀行のラザードに加入して以来、一貫してクロスボーダーM&Aで主に日本企業による海外企業の買収のお手伝いをさせていただいています。その過程でアクティビスト対応や事業ポートフォリオをどう考えたらいいのかといったことをクライアントと議論する機会がかなり多く、今日の議論にぴったりの話もあります。最近では、昭和シェルと出光の統合案件で昭和シェル側のアドバイザーとして足かけ4年ほどかけて携わらせていただくなど、国内の業界再編にも関与するようになっていますのでそういった観点からもお話できるかなと思っています。よろしくお願いします」

吉村 「大阪市立大学大学院経営学研究科の吉村です。専門分野は経営戦略及び組織論です。元々上場子会社の存在の合理性を研究してきた関係から、ガバナンス全般について関心を持つようになりました。今日のディスカッションでは、上場子会社をどちらかといえば肯定的な視点から捉えていく形でご議論させていただければと思います。よろしくお願いします」

二 事業再編実務指針の概要

1. 事業ポートフォリオマネジメントの基本的意義

事業再編実務指針のポイント

武井 「では、安藤さんのほうから事業再編実務指針のポイントをご説明いただけますでしょうか」

安藤 元太(あんどう・げんた)

安藤 元太(あんどう・げんた)

経済産業省産業組織課長
2004年東京大学大学院工学系研究科修了。2004年から経済産業省に勤務し、経済産業政策局、製造産業局、大臣官房総務課、米・コロンビア大学留学を経て、2012年から資源エネルギー庁及び電力・ガス取引監視等委員会事務局で電力システム改革を担当。 2016年から産業組織課でCGSガイドラインの策定、役員報酬税制の改正、スピンオフや株式対価M&Aなど事業再編の円滑化を図る税制改正等を担当。大臣官房秘書課政策企画委員を経て2020年から現職。

安藤 「事業再編実務指針は特に買収よりは事業を切り出すところに重点を置いて作られています。背景にある問題意識は、多角化した日本企業が低収益な事業部門を抱え込み続けているのではないかというところです。いわゆるコングロマリット・ディスカウントといったものをどうやって改善していくか、ここ数年の経済産業省の通底した問題意識でありまして、それを制度的なアプローチではなく、むしろ企業の方に直接的に訴えかけていくために実務指針を作ったというのが背景事情でございます。基本的な考え方としては、昨年、『グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)』の中でグループ全体の事業ポートフォリオをどういうふうにマネジメントしていくかを取り上げていまして、今回の指針ではこの点を特に事業の切り出しに重点を置いて深掘りしています。最近では、『両利きの経営』という言葉がよく使われますが、企業経営では新しい部分を探索していくことと、既存の事業を進化させていくこと、この両方が求められており、さまざまな事業を抱える中でどのように実現していくか。また、今回打ち出している考え方の中で、『ベストオーナー』と言っていますが、ある種企業は1つの器であると考えたときに、それぞれの事業がどの企業のもとにあればベストなのかということ。典型的には、他社から買収のオファーがあったときに、それを自社が抱え続けておくことと、他社に譲り渡すということのどちらがベターなのかを、それぞれの経営者自身が考える必要があるということです。それが事業再編実務指針の一番のベースにある考え方だと考えています」

2. 事業評価の指標等

事業評価の仕組みの構築と運用 ~『4象限フレームワーク』

安藤 「今回の実務指針では、第1章の背景・問題意識等のあと、事業ポートフォリオのマネジメントについて第2章から第4章まで3つのチャプターに分けて、それぞれ、3つの主体ごとに整理をしています。まず、経営陣の目線が1つ。もう1つは

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